-孤独の戦士-

□code.5【似非双子の災厄:後編】
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そして 午後9時頃に時間は戻る。


仮峰鮎の私室は 片隣以外の隣合った部屋はもちろん、

周辺は絶対に誰も入らない空き室、もしくは物置になっていて。

よく 任務等で遅くなった隊員が申請をして、こういった部屋を借りたりするのだが、

この階層はそれが滅多にないし、あっても近くでないのだ。


だからといって、人気は極々僅かだが 誰も通らないわけではないということ。



「この階層…来るのは初めてだな…」



沢村から貰ったメモを片手に、静まり返った通路を歩く。

キョロキョロと辺りを見回し、目的の部屋を探していると…



「…あ、ここだ」



廊下から十字路に出る ひとつ手前のドア。

備え付けられたプレートには【0420】の数字が刻まれている。

本部長補佐直筆のメモにも【0420の部屋】と書かれていたのだ。


因みに何の数字かというと、ただ単にアユの誕生日というだけである。



「えっと…あ、インターホンがある…」



大体の隊室には マンションのようなボタンがある。

しかし普通と違う所は 家主の声が聞こえるスピーカーが付いていない。



[ピンポーーン…]



拒否されれば、居留守を使われるのが簡単ということ。

だが押さないわけにもいかず、ポチリ。


実際不在とかではなく、疲れからぐっすり眠っていたアユは起きない…



『……ん……う、ん…?』



と思いきや、ちょうど浅い睡眠だったのか 音に反応して 身じろぎし始める中の人。



『ふぁ…ん〜………だれだ…?』



のろのろと起き上がり、暗がりの中 目を擦りながらモニターを確認。

しばらく見続け、2回目のチャイムが響き渡る中 あることに気付く。


見覚えのある髪型だと。



『…じんのやつ…ちょくせつきたのか…?』



眠たい思考で辿り着いた人物。

それはボーダー七不思議にも数えられる(?)双子じゃないのに双子みたいな2人の片割れ。

加えて色の分かりにくい液晶であったのと 本部に向かっていった迅を送り出したのもあり、

まさか嵐山の方だという予想に至らなかった。


ふらふら…と電気を付けてから玄関に向かい、ゆっくりだが慣れた手つきで 自動ドアのロックを解除。



『…なんだー…じん…』



未だ目を擦ったまま、完全に自称実力派エリートだと思って応対してしまった。



「……!?」



当然 思っていた人物と違い、しかも寝間着の女の子が出てきた事で 驚いて言葉を失う嵐山。

因みに服は はだけているとかではなく、普通です。



『…?』



しばらく経っても黙っている(固まっている)彼。

不思議に思い、アユは目の前の男の顔を見つめた。



『(……あれ…じんのかみって…くろいろだったっけ…?)』



髪型は確かに あの男と似ている。

しかし、色に違和感を感じ始めた。



『(それに…めの色も…青じゃなくて…緑……)』



徐々に覚醒してきた頭で 次第に目の前の男が迅ではない事に気付く。


ならば 今ここにいる人間は誰なのか。

信じたくないなんて無駄な希望がほんのり 過【よ】ぎる中、すぐに思い当たる人物。



『…あ…あらしやま、さん…!?』



動揺で頬は紅いが、絶望で青ざめている仮峰。

普段の彼女からは想像がつかないくらいの。

いくらなんでも こんな事態に慣れているわけがなく、思考諸々停止する。



「…きみ…は……?(なんだろう…いい香りがする…)」



それはこちらも同じだが、驚きながらも 一言声を発した嵐山。


しかし、本日は運の悪い日だったのか。



‘…こ近道な…だよ…〜’


‘へぇ〜……なかった…’


『っ!!』



廊下から聴こえる 誰かの話し声。

先程も言ったが、この階層は“誰も来ない訳ではない”

この時間に人がいるなど ほぼありえないのに、だ。


一瞬で眠気が吹っ飛び 現状況を他人に見られたら確実にマズイと感じ、思わず嵐山の腕を引っ張る。



「…うぉっ!?」



気を取られていた彼は簡単に動き、玄関まで入ってしまう。

次に、ドア横のボタンを押した。

すると自動的に閉まり、カチリという音と共にロックされる。

ネアの部屋は センサーで開くドアではなく、ボタン開閉式なのだ。



『ハァ…ハァ…ハァ…』


「(…! 香りが、強くなって……?)」



あまりの事態に 珍しく息を荒げ続けるアユ。

すると 何かの香りが鼻をくすぐり、思考が持っていかれていく嵐山。


次第にぼー…っとしてしまう彼だったが。



『…突然すみません、あらしやまさん』


「…っ!」



自らの腕を掴む人間の声で、やっと我に返った。



「……きみが…ネアなのか…?」



おそるおそる、確信に近い形で問う。


嵐山の言葉に俯いたままだが、数秒の間の後 少女は口を開いた。



『…この状況で隠すなんて無理ですから、白状しますけど……お察しの通り、私がネアです』



自分より濃い エメラルドの様な瞳で射抜かれる。

言葉が嘘でない事と同時、潔い姿勢に ただただ関心した。


『このままお帰り頂くのは失礼ですし、立ち話もなんですから、中へどうぞ』と、離した手で 奥へ促すネア。

普段とは 態度も雰囲気も全然違う…と思いながら「そ、それじゃあ お言葉に甘えて…お邪魔します」と部屋へ上がった。



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