-孤独の戦士-

□code.3【昔と今での繋がり:後編】
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[パリィィンッ!!]


『…!』



落下中、ガラスが割れる様な音が耳に入る。

目をやると、南校舎の3階にある窓に モールモッドが張り付いていて。



『…1体発見、片付けます』


〈了解〉



運動場へ着地し、オペレーターへ通知。

逐一報告が義務 というわけではないのだが、一応。



『!?』



しかし いざ走り出そうとしたその時、大きな音の後 壁から外れた怪物。


そうなれば、重力にしたがって 下に落ちるということ。



『どうなって…───!!』



ただ落ちるだけなら良いのだが、ネアは見つけた。



‘きゃあぁぁぁぁ!!’



落下してくるちょうど真下、生徒が1人 動けないでいたのを。



『〔グラスホッパー〕!』



サブトリガーの1つ〔グラスホッパー〕をすぐさま発動。

ものの数秒で下に到着し、そこからまた上に跳ぶ。



『はぁっ!!』



白銀弧月〔しろがねこげつ〕を構え、モールモッドを切り刻む。

1度ではなく、何度も何度も。

大きな塊のまま落ちてしまえば、生徒達に被害が及ぶかもしれないと考えた為だ。



『……ふぅ、これくらいなら 問題ないか』



1度回して 矛を下に、槍を地面に差す。


振り返ると、涙目で固まったままの女生徒。

見た目の問題や 部署の関係であまり関わらないのだが、放っておく訳にもいかず ゆっくり近付く。



『大丈夫か?』


「…っ! あ……は、はい…」



尻餅をついている少女に声をかけると同時に、手を差し出す。

一瞬 ネアの姿を見て怯むが、あえて気付かないフリ。

そろりと伸ばしてきた少女を、しっかりと引っ張りあげた。



『怪我は…なさそうだな…』



〔ペルソナ〕越しではあるが、視界は良好。

制服に砂は付いているものの、大きな外傷は無かったようだ。



『(ん? こいつ確か、隣のクラスの…)』



ふと、アユは目の前の生徒に見覚えがあった。

黒の短髪に、鳥の羽根の様なくせっ毛の少女。

自然と名前が頭に浮かんできた、その時…



‘佐補姉ぇぇぇ!!’


『…!』


「…あ、副!」



校舎の方から、おそらく少女の名を呼んで必死に走ってくる これまた彼女に似た男の子。



「佐補姉!! 無事だよな!? 怪我は!?」


「だ、大丈夫よ…! ボーダー隊員さんが助けてくれたから…!」



ぺちぺちと少女の身体を触って、怪我の有無を確かめる少年。

別に変な意味ではなく“家族”の安否の為である。



『(さほにふく……やはりそうか。

 1年の時にクラスが一緒だった、あらしやまさんの双子の弟と妹。

 以前あの人が嬉しそうに、自慢の弟妹だと言っていたな…)』



双子の姉弟 嵐山佐補と、嵐山副。

ボーダー本部 A級5位 嵐山隊の隊長 嵐山准の、紛れもない弟妹達である。


彼とは仕事上 面識もあり、世間話や模擬戦をする仲。

もちろん嵐山は ネアの正体を知らないが、人柄の良い性格のおかげで 普通に接してくれる。

そんな彼が大好きな2人の事は、ちゃんと覚えていたのだ。



「えっ…ボーダー隊員…!? こ、この人が…!?」


「ちょっと副…!」


『あぁ…こんな見た目だからな、驚かれるのは当たり前だ。

 別に気にしていないし、お前達も気にするな』



いつも通りの反応に ほんの少し眉を下げるが、なんなく答える。

因みに〔ペルソナ〕の変成器で 声の音程を弄っているので、それも加えて怪しい。

しかし、今に始まったことではないので本当に気にしていないとか。



「あの…助けていただいて、ありがとうございます…」


『怪我が無くて良かった。

 それにもう安心していい、すぐにA級部隊が駆けつけてくれる。

 私は付け焼き刃だからな』


「つ、付け焼き刃って…」


『…まぁ事情があるんだが、それでも私がやるより A級に任せた方が安心だろう?』



言い終わり『(少し喋り過ぎたな…)』と感じたアユ。

相手に自分が分からないとはいえ、知り合いで なおかつ同級生だと 無意識に緩くなってしまうもの。



『さぁ、お前達も早く シェルターへ避難しろ。

 近くに 近界民【ネイバー】がいないとはいえ、危険だ』


「は、はい…」


「佐補姉、行くよ!」



気を取り直して、2人に逃げるよう促す。

衝撃で瓦礫の崩壊や 窓ガラスの散乱等で 充分危ないからだ。


弟に手を引かれ、走り出そうとする佐補。



「…あっ、あの! ボーダー隊員さん!!」


『…!』



…の前に、白銀弧月〔しろがねこげつ〕を地面から取ったネアへ 声を掛けた。



「あの、名前…聞いてもいいですか…!?」



周りの轟音からだろうが、若干大きな声で。

仮峰もまさか 名を聞かれるとは思っていなかったので、一瞬驚く。


だが嬉しくも思い、仮面の裏で少し口角を上げながら 少女へ向き直る。



『…私の名は、ネアだ。

 仕事上 いつでも救助が出来るわけではないが…

 もしまた 同じような状況であった時、私は必ず お前達を救けると誓おう。


 じゃあな』



空いた右手を彼女等に上げ、校舎へと走る。

残ったトリオン兵1体の反応が 建物内にあると、沢村からレーダーに指示が入った為。


目指すは南館 3階廊下。



「…あの人 見た目は怖いけど、カッコよかったね…」


「うん。兄ちゃんは知ってるのかな…?」


「さぁ……ほら佐補姉、シェルター行こう!」


「分かってるよ…!」



走っていく隊員の背中を見送り、双子は地下室へ。


その表情に、不安の色は無かった。



*
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