-孤独の戦士-

□code.1【異世界からの来訪者】
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[ピンポーーン…]


‘はーい’



天気の良い朝、通学時間帯。


ある住宅のインターホンが、心地よく鳴り響く。

家の者で 鳴らしたであろう人間が待つ少女 雨取千佳は、鞄を持って家を出た。



「おはよう、アユちゃん」


『おはよう、ちか』



黒髪に ちょこんとしたくせっ毛が目立つのは千佳。

対して彼女より長髪で、薄い黄に近い色の ポニーテールな女性。


名を 仮峰 鮎。

少女と同学年であり 同じクラスであり 親友である。



「あれ? アユちゃん、手に持ってるのって…」


『あぁ、これか? 見ての通り、国語の教科書だ』



並んで歩く2人の内、鮎は 鞄と逆の手に本が。



「あー……アユちゃん、国語苦手だもんね…」


『…苦手というか、この国の言語は多過ぎなんだ。

 ひらがな、カタカナ、漢字、日本語、英語……

 2年経ってやっとある程度覚えてきたというのに、今度は朗読ときた。

 辞書を片手に、昨日全部調べたんだよ…』


「…それでちょっと眠そうなんだね」


『そういうことだ…』



周りから見れば 少し目付きの悪い女の子というだけなのだが、

流石 親友なだけあり、寝不足であるのを見抜いた。

国語が苦手なのは、彼女が“日本育ちではない”から。


見ての通り クリーム色の髪に、緑の瞳。

名は日本名だが 日本人離れしている容姿。


仮峰鮎という人間が何者かは、いずれ分かることである。



───…



『…なぁちか、こういうのは【骨折り損のくたびれもうけ】ということわざで合っているか?』


「うん、合ってるよ」



昼休み、彼女達の通う学校 三門市第三中学校の屋上にて。


それぞれのお弁当のおかずを、たまに交換したりして食べる 千佳と鮎。

日本に来て数年は経っているので、箸の使い方は問題無し。



『むぅ…苦労して調べたというのに、授業中当てられる事はなかった。

 しかもなんだ…教科書に夢中で顔は見ていないが、転校生が扉の前に居たんだってな?』


「あー、そういえば…わたしも朗読してたから、顔は見てないけど…3年生だったっていうのは聞いたよ」



2人のクラスは「2-2」

一時限目の国語の際、何故か扉のガラスから中を伺う生徒がいたという。


先生がその人に聞くと、本日からの転校生だったそうだ。



『へぇ、3年か…おさむと同学年だな』


「そうだね…! もしかしたら、修くんと同じクラスかも…」


『今度会った時に聞いてみるか』


「うん!」



修、とは 千佳の幼馴染みに当たる 1つ上の少年 三雲 修。

鮎は彼女繋がりで何度か会っているので、知り合いなのだ。



[キーン…コーン…カーン…コーーン……───]


『お、昼休みは終了だな。行くぞ、ちか』


「うん、アユちゃん!」



お弁当を片付け、立ち上がった鮎は 親友へ手を差し伸べる。

おそらく慣れているのだろう、驚くこともなく 千佳はその手を取って腰を上げた。


暫くは、繋いだままで。



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