-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#ses【絵心と切磋琢磨:後編】
2ページ/2ページ




『もーーーーっ、絶対崩せると思ったのに〜〜!!』


「いや、中々の蹴りだったぞ。俺には通じなかったがな」


『その言い方苛つく!!!』



地面を踏みながら憤慨するローゼンタール。


相当悔しかったようで、上から目線の彼に 余計増し増し。



「ダリューンの言う通り 悪くない踵落としだったぞ、ロゼ。

 剣技より、こちらの方が向いているようだな」


『ほんと!?

 えへへ〜ヴァリさんが言うならそうなんだよきっと〜!』


「なんだ、お前は拳闘士を目指すのか?」


『そう! 正確には、脚拳闘士だけどね』



ヴァフリーズに頭を撫でられたのもあり、黒少年への態度から180度変わって笑顔。

話を聞いていたナルサスからの問いにも答えたように 彼女は体術を極める事に決めたようだ。


それにはまだまだ、修行が必要だろうが。



『だからさ〜、馬にも乗れるようになりたいんだけど あたしにはまだ居ないんだよね…』


「親には頼まないのか?」


『…確かに 騎士階級【アーザーターン】だけど、自分のことは自分でしたいんだ』



ルミジエとジーグの乳母一家 グーナグンは 軍に所属している者はいないが、

王族を預かる生業から、階級は 自由民【アーザート】より上。


お金もある方だが、ローゼンタールは頼りたくない。

むしろ、恩返しをしたいと思っているから。


血が繋がっていない事は隠し、望みの表面だけ話す。



『それに、馬が居てくれたら ダイラムにもすぐ行けるでしょ?』


「!」



先程も言った通り 離れたダイラムから来る彼の所へ訪れるには、こちらも馬が必要という考えに至る。

いつも来てもらっているのは悪いと感じていたからだ。


それを聞いたナルサスは、珍しく驚いた顔をする。



「…なんだ、そんな事か」


『そんな事ってなによー!』



隣のダリューンは呆れているようで、ため息をこぼした。


ラミアローゼの癇に 障【さわ】ったらしく、ぷんぷん怒っている。



「まぁ怒るな怒るな。


 そこまで 拘【こだわ】らぬとも、いつでも歓迎するぞ」


『へ? そうなの…?』


「あぁ、確か…街の外へ行く話を以前していただろう。

 ならば、ダイラムへ来るといい。


 宜しいか? ヴァフリーズ殿」



ナルサスと会う前、ダリューンと約束したのを 彼にも話したのだ。


一緒に行こうと決めていたので、丁度いい機会である。



「あぁ、勿論だ ナルサス。

 行き先を決めあぐねていた所だしな」


「決まりだな、ロゼ」


『………』



付き添いの大人の許可も取れ、隣の黒少年が頭に手を置く。


しかし、ぽかん…と黙ったまま無反応なローゼンタール。

いつもは『子供扱いしないで!』と怒るところなのに。



「…ロゼ?」



様子がおかしいと思い、自分より低い位置の顔を覗き込む。



『あ、ううん!

 すぐに実感湧かなかったから驚いちゃって…


 ありがと、ナルサス、ヴァリさん、ついでにリュー!』


「ついでか俺は!」


「今の所、お前は何もしていないからな」


「まだ分からぬだろう!


 大体ナルサス、お前な…───」



突然の近さに驚きながらも、皆【みな】に礼を言う。

それが発端か、また言い合いを始めてしまう2人だが。



「…良かったですね、王女様」


『うん! …って、王女って呼ぶの禁止!』


「おっと失礼…」



少年達には聴こえない距離で 小声の会話。

元家臣と 元王族だけの秘密。

今だからこそ、こうやって軽口も叩けるのだ。



『…でも、みんな優しいな…

 最近知り合ったばかりなのに、ここまでしてくれるなんて…』


「ロゼよ、それが友というものですぞ。

 謙遜なさる必要はありません。


 …貴女は幸せになって良いのです、ラミアローゼ様」


『……うん…ありがと、ヴァリ』



ラミアローゼとして 王宮に住んでいた頃は、兄以外の人間を遠ざけていた。

物心もつかない内に 王妃の母が亡くなり、血の繋がらないタハミーネと再婚したことで、

父であるオスロエスへの不信が高まり、その家臣も 信用ならなくなる。


だから 人と一線をひく方だったのだが、ダリューンと出会い 彼からその線を超えられた。

しかも今回 自分の願いを考慮して、外へ出る計画を立ててくれて。



『(ヒース兄様…ごめんなさい。

 私、王族の地位は捨てましたが…毎日が楽しいです)』



普通の人間になったからこそ、手に入れられた生活。


何処かできっと生きている兄に 申し訳なく思いながら、これからも過ごしていきたいと思った。



───こうして、ありし日の日常は 幕を閉じた。


次の幕開けは、初めて行く外の世界。



*
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ