-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#panj【絵心と切磋琢磨:前編】
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市場を抜け 城壁が見えてきた頃には、空は既に橙の色。


それでも 日夜繁栄し続けているエクバターナは、人の行き交いなど あまり減っていない。



「着いたぞ、ロゼ」


『うわぁ〜…! 近くで見ると高いね〜〜!』



結局手は繋いだままで、現在進行中。

目を輝かせている彼女が 何処かへ行ってしまうのを防げてもいる。



「なんだ、ここに来るのは初めてか?」


『そうだよ!

 生まれた時から、このエクバターナを出た事無いんだ』


「そうなのか…


 なら今度、一緒に外へ出てみるか。

 おじ上にも同伴を頼めば、きっと許可してくれる」


『ほんと!? やった〜!!』



ぴょんぴょん跳びはねて喜ぶ少女。


その様子が微笑ましく思い、優しい顔を浮かべるダリューン。

本当に兄妹のようだが、それはさておき。


城壁というのは、誰しもが上がれるわけではない。

せいぜい 軍関係者やその家族、もしくは貴族あたりだろう。


つまり、これから会う人間は…



「お、いたいた…ナルサス!」



そのどれかに値する地位を持っている者。


ダイラム領主の息子 ナルサス。

夕日を横目に 難しい顔で筆を走らせる、金の髪に紫眼の少年がそこにいた。



「…む……そんな耳に響く程の大声を出さずともよい、ダリューン。


 全く…お主はいつも暑苦しいな」


「人がわざわざここまで来ておいて、その言い様は無かろう?

 お主こそ、上達する見込みのない絵を描き続けて飽きぬのか?」


「絵心の分からぬお前に言われとうないわ!」



顔を合わせた途端、口調は至って丁寧だが 言い合いを始める少年達。

仲が悪い というより、仲が良いという具合の。



『(うわ…リューが丁寧な喋り方してる…)』



手は繋がれているので ダリューンの隣から黙って見ている。

まだそれほど長い付き合いではないが、こんな彼に覚えはないロゼ。

内心びっくりしていたり。



「ハァ……ところでダリューン、隣にいる子供は…───」



呆れの濃い溜め息の後、一応最初から気付いていた少女に目をやるナルサス。


しかし、目線が下に移動した途端 言葉が止まった。



「……はて…お主に妹なぞいたか…?」



顎に手を当て、記憶を辿り始める。



『むっ、ちょっと!

 あたしはリューの妹じゃないわよ!

 大体そんなに年離れてないし!』



…の前に、大声で否定したロゼ。

勢いで 繋がれた手は外れる。



「おぉ、すまんすまん。

 確かによく見ると、全く似ておらんな。

 お主に失礼だった」


「おい…それはどういう意味だ」



わざとらしく肩をすくめて 謝罪したナルサス。

友への皮肉も混じっているので、言われた者はじろりと睨む。

しかし全く相手にしない彼であった。



「私…いや、俺の名はナルサス。

 エクバターナ近郊にあるダイラムで 領主を務めているのが、俺の父だ」


『あたしはローゼンタール!

 長いから、ロゼって呼んで!

 あたしの両親と、ダリューンの叔父のヴァリさんが知り合いで、彼に剣術習ってるの!』


「ヴァリ…あぁ、ヴァフリーズ殿の事か。

 よろしく、ロゼ」



お互いに握手を交わし、自己紹介。



「(…意外に気が合うのか? この2人…)」



蚊帳の外な黒の少年は 腕を組んで見つめる。


少し悔しいとかではないと思われるが。



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