-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#panj【絵心と切磋琢磨:前編】
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『ねー、何処向かってるの?』


「城壁だ。

 おそらくそこにいるだろうからな」


『城壁〜??』



ざわざわと周りが騒がしい中、目的地について聞いているローゼンタール。


何故うるさいのか。

それは軍宅区(ダリューンの家がある区画)から 商い区へ入ったからである。



『…って事は、軍人なの? 友人って』



軍の者なのかと思い、一瞬眉を寄せる。

彼も将来 軍に入るのだろうから、その可能性が高いと思ったから。



「いいや違う。


 …一言でいうなら、絵を描くのに最適な場所だそうだ」



しかし、返ってきた答えは全然違った。



『えっ! 絵描くの!?

 見たい見たい〜…わぷっ…』



絵描きさんだと分かり、目を輝かせた彼女。


それも相まって 前方を確認していなかったロゼ。

ただでさえ小柄な子供が、前から来る大人達に耐えられるはずもないので。



「! ロゼッ…!」



反対方向の大きな脚にぶつかってしまい、体制を崩した少女。

それを斜め前のダリューンが気付き、とっさに手を伸ばす。



『わぁっ……あれ?』



倒れてしまうと感じ 反射的に目をつぶったが、きたのは 掴まれた感触。



「大丈夫か? ロゼ」


『う、うん…ありがとう、リュー…』



きょとんとしてしまうローゼンタール。


まさか支えてくれるとは思わなかったからだ。



「ここの一帯は人通りが多い。

 手を離さないように、気をつけろよ」


『あ…は、はい…』


「ん、どうした? いきなり敬語で」


『えっえっえっななななな何でもない…!』


「? そうか」



しかもすぐ離さず、繋いでいてくれる流れ。

驚きすぎて つい“以前”の口調が出てしまう。



『(うわわわわ…落ち着け落ち着け…)』



空いている右手を胸に当て、無理矢理な深呼吸を始めた。



「そういえば、お前はいつも左手に包帯を巻いているな。

 何か理由があるのか?」


『ふぶっ…!!』



…のだが、追い打ちをかけられ 深呼吸が途中で止まってしまう。


もちろん知らぬが故なので、彼に悪気は全くない。



「…お前、本当に大丈夫か?

 調子が悪いのなら、また後日でも…───

『そそそそんな事ないから! 全然そんな事ないから!!』


「2度言わんでもいいだろう……で? 理由はあるのか?」


『りっ理由?

 理由はえーっとその……そ、そう! あたし左利きだから、こっちよく怪我するの!

 だから普段から包帯巻いて防いでるの! それだけ!!』


「ほぉ…なるほど」



本当の理由…火傷の事を言えるわけがないので、即興でそれらしい嘘をつく。

元々 兄が褒めるくらい、頭は回る方なので。

実際 まだまだ慣れない家事で怪我はしやすいので、あながち嘘ではない。


とりあえず、ダリューンは納得したようだった。



『そ、それより…!

 その人ってどんな絵を描くの!?』



話を切り替えさせようと、会いに行く人のことを聞く。

慌てているのと 周りが五月蝿いのとで、自然と大声に。



「どんな…というか、アイツの絵に期待しない方がいいぞ、ロゼ」


『…え?』



すると ダリューンは変わった答えを。



『それって…どういうこと?』


「…着いたら説明する」


『はぁ…』



詳細は聞けなかったが、彼がどこか遠い目をしていたのに気付き 口を閉じた。



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