-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#cahar【戦士を目指す者】
2ページ/4ページ




「…ほぉ、ローゼンタールですか…良い名ではありませんか」


『えへへ…でしょ?

 …あ、すみません…』


「いいえ、お気になさらず。

 むしろ 我らだけの際は、敬語など必要ありません」



3ヶ月前にも、同じ場所に座って話をした。

しかしその頃とは 面持ちも気持ちも違う。


元主従であり、今はひとりの少女と ひとりの男。

絆は以前より、強固となっていた。



『そう…?

 じゃあ貴方も、敬語は使わないで。

 私は…あたしはもう、それで話される立場じゃないから』


「しかし…」


『お願い、ヴァリ』



今まで、彼女が家臣に懇願など したことが無かった。

何度もいうが、逃げまくっていたので。

なのでこれが初めてである。



「…分かりました、ローゼンタール。

 貴女の御心のままに。我が永遠の主よ」


『え…主…?』



静かに立ち上がったヴァフリーズは、つられて椅子から降りたローゼンタールに近付く。


首を傾げて見上げる少女の前で、跪いた。



「私にとって、貴女様の存在自体が 永遠に仕えるべき主。

 しかし 今となっては仕えるのではなく、見守るという形しかできませんが…


 たとえそれでも、表面上の主君が王だとしても、

 私が死するか、貴女様がお亡くなりになるまで、私は貴女の家臣にございます」



まっすぐ、真剣な声調。

俯きながらも 誠意が伝わってくる。


突然の事に驚きながらも、受け取った目の前の少女は 胸に手を当て 目を瞑る。



『…貴方の想い、しかとこの心に刻みました。


 顔を上げてください、ヴァフリーズ』


「はっ」



あえて“主として”の口調で答え、促す。


ローゼンタールは今までにない、優しげな表情だった。



『改めて、これからもよろしく ヴァリ!』



少しぎこちないが、笑顔と共に 手を差しのべる。


ヴァフリーズは この3ヶ月で成長した主に喜びながら、その手を取って 立ち上がった。



「…えぇ、よろしく ローゼンタール。

 では、行きますか」


『ほぇ? 何処に…?』



握った手はそのままに、突然そんな事を言いだす彼。



「ルミジエには 既に許可はとっているんだが…これから私は、甥の剣術訓練に向かう。

 一緒に来ないか?」


『甥…? ヴァリって甥がいたんだ、知らなかった…』


「話そうにも、貴女は私から逃げていたでしょう…」


『あ、そうだった…ごめん…』



『あはは…』と乾いた笑いで返しながらも、答えは決まっていた。



『剣術か…兄様がいる時は、全くやる気にならなかったけど……

 私…いや、あたし、もう1回ちゃんと習いたい…!

 いざって時に、役に立つかもしれないし…!』


「はっはっ、決まりですな。

 では 本日は娘さんをお借りする、ルミジエ」


「は〜い。

 行ってらっしゃい、ローゼンタール」


『行ってきます、母さん!』



今まで近くでニコニコしながら見ていた母は、またもや笑顔で手を振る。


そうして2人は、手を繋いで出掛けていった。



*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ