-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#seh【偽りの死】
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軍将に引っ張られるがまま、場所は既に 王宮の外であった。

抵抗する気は失せたものの 彼や叔父の意図が分からず、黙り込んでいるラミアローゼ。


しかし、興味がないわけではない。



『…ヴァリ、貴方は私を 何処へ連れていくつもりですか…?』



好奇心が勝り、ヴァフリーズを見上げて問う。



「……私が向かっている所は“グーナグン”の元です」


『グーナグン…?』



鸚鵡返しに呟いてみるものの、彼女に心当たりはない。


少し間を空けて、彼は口を開く。



「グーナグンとは、代々王家の乳母を担っている一族の総称です。

 王女のことは 前王妃様が自ら子育てをなさりましたので、知らぬのも無理はありません。


 …これから貴女様には、その者達と暮らしていただきます」


『…!』



前を向いたまま、ヴァフリーズはそう言った。


王宮を連れ出された時から『もうあそこには戻れない』と、覚悟はとうにしている。

だから 驚きはしたものの、拒絶の意はなかった。



『……本当に、私を殺す気は無いのですね、叔父上は。


 でも、あの時言った事は本意です。

 ……それでも 私にどうもせず、住む場所を与えるというんですか…?』



もう、生きるのなんてどうでもいい、と思っていた。

二度と 最愛の兄と会えぬのなら、生きている意味がない、と。

その方が、死の真実に信憑性が増す、とも。


でも、誰も自分を殺さなかった。

あの厳格な叔父さえも。


だから、一番信頼していた彼に委ね 聞いてみた。

おそらく こうやって主従で話すのは、最後だと思ったから。



「…そうです。


 王女よ、それは決して 憐れみなどで下されたものではありませんぞ。

 王弟殿下が 貴女様を想ってくださるからこそ、苦渋の決断だったのでございます」


『…叔父上が…私を…?』


「えぇ。


 …わたくしとしても、どんな形であれ……ラミアローゼ様には、生きていてほしい」



繋いでいる手に、力が込められる。

王女が ではなく、ヴァフリーズが。



『(ヴァリ…)』



言葉に表さなかったが、少女はそっと 握り返した。


ただ、何も言わずに。



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