-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#seh【偽りの死】
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事如く積み重なる、大人達の裏切り。


少女の心は どす黒く染まっていき、絶望と恨みが支配していく。



『……ならば…私は……』


「…?」


『…私のことは……ヴァリが殺すんですね…?』


「「「!?」」」



誰もが耳を疑った言葉。

光の無い瞳で紡がれたそれは、全てを諦めているもの。


兄の生を偽ったことで 役目は終わったと、悟ったのだった。



「ラミアローゼ…何故、そうなるのです…!?」


『だってそうでしょう!?

 私が叔父上に問うた時点で、兄様を殺したという事実を知っている事になります。


 そんな人間を、王弟殿下が生かしておくとでも…?


 違いますか、義母上!?』



自重した笑みを口許に浮かべて、そう 主張する。

まだ 齢九の子供がだ。


王妃は堪らず体を震わせ、これ以上 何も答えられなくなった。



『…私は、この謁見の間赴いた時に悟りました。

 私の命は ここで尽きる、と。


 覚悟など、とうにできています…!』



もはや【死】しか、頭にない。

ヴァフリーズも 返す言葉が見つからず、黙り込んでしまった。


彼女の絶望が、この場に 息苦しいような 辛い雰囲気を作り出す。


そして、そんな沈黙を破ったのは…



「ならん」



ただ一言、答えを述べた叔父 アンドラゴラスだったのだ。



『……何故、ですか…?

 何故貴方が、そんな事を言うんですか!?

 兄様を殺した貴方が!!』



彼の言葉に タガが外れたのか、畳みかけてもの申す。


既にこの場は、ラミアローゼとアンドラゴラスのみしか居ないような 2人だけの圧のみであった。



「…確かに、私の命令で お前の兄が死んだ。

 だが、お前があの場にいた事を 私は知らなかった。

 お前は巻き込まれただけだ。


 そのような者を、殺す動機はない」



はっきりと、殺さぬ意思を示す叔父。


それは 彼なりの償いだった。

兄が最後に託した 願いのために。



「……よくもそんな事を言えましたね!?

 私を生かして、貴方に何の得があるのですか!?


 私をこのままにすれば、いつか必ず 貴方に復讐します!!

 それでもいいんですか!?」



そんなことなど露知らず、目上の者に対しての暴言を 遠慮なく浴びせる。


ここで誰も 咎めはしない。

理解は、されているから。



「…ヴァフリーズ、連れていけ。

 “グーナグン”の元に」


「…御意」



もはや聞く耳持たず、王弟は 万騎長【マルズバーン】に命じる。

【思いは同じ】という意の返事をした軍将は、一礼して 王女の腕を掴んだ。



『…!? 離してください、ヴァリ!!

 私は、まだ…!』



入口に向かうヴァフリーズに抵抗するが、子供の力でどうにかなるわけがない。



『っ…叔父上!!

 私は…っ…叔父上ーーー!!!』



引き摺られる形になっても、最後の足掻きともいうべき意思で叫ぶ。

だが もう既に、誰にも響かないでいた。



翌日、王都全土に ひとつの布令が伝わった。


「国王 オスロエス5世、並びに 嫡子 ヒルメスと 王女 ラミアローゼ。

 王宮内の火災によって、死去なされた」と。



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