-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#seh【偽りの死】
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《王女様、こちらへ》


『…はい』



火事も鎮火され、落ち着きを取り戻してきた エクバターナ 王宮。


あれから 自分で兵の元へ行き、ラミアローゼは保護された。


「保護された」というより【確保された】というのが妥当ではないのか。

そう彼女は感じていたが。



《お疲れのところ 申し訳ありませんが…アンドラゴラス殿下がお待ちです》


『…わかっています。開けてください』


《かしこまりました》



今現在、ラミアローゼは謁見の間へと続く扉の前にいる。

『開けてください』といったのはその扉で、先に行けるのは 用のある者のみ。


今回は、彼女だけなのだ。


鉄の大扉が、重苦しい音をたてて開かれる。

1人通れるくらいで止まり、静けさがよみがえった。



「…王女様」


『はい?』


「…いえ、また 後ほど。

 私は此処でお待ちしておりますので…」


『…!』



ふと 口を開いた兵士の言葉は、至極当たり前なこと。

だが ラミアローゼは【それに応じれないのではないか】と、感じてしまっていた。


…もう“ここへは戻れない”と。



『……ありがとう、ございます。


 …後ほど お会いできるように、名を聞いても…?』


「ははっ、有り難き御言葉…!

 …僭越ながら、我が名はカーラーンと申します」



目元が腫れた状態ながらも、笑みを浮かべた王女。

男は跪き、頭を垂れて名を名乗った。



『…カーラーン……素敵な名ですね。

 …覚えておきます………ありがとう…』



その姿に 一瞬だけ苦笑し、小声で感謝を述べ 踵を返す。

少し先にある、謁見の間を目指して。


同じ音をたて、閉まった扉。



「……ラミアローゼ様…」



ここまで見送った兵士…正確には千騎長である彼 カーラーンは、扉に向かって、もう一度 頭を下げた。



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