-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#do【恨みのはじめ】
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『………』


「…これからお前の提案通り、エクバターナを出る。

 そしていつか、復讐のために ここへ戻るんだ。


 だからラミアローゼ、お前も…───」



ショックで青ざめる妹の肩を 少し無理矢理掴む。


しかし、紡ごうとした言葉が止まった。



‘ラミアローゼ王女ーーー!!’


「『!!』」



第三者の声、王女を探す兵士の声に。



『(え…何故、私だけ…!?)』


「(…やはり…!)

 ラミアローゼ、隠れるぞ!」



ほうける妹の手を引き、建物の隙間に逃げ込む。

木箱の陰で身を潜めていると、兵装の男が2人 見える位置で合流した。



《王女は見つかったか?》


《いや、こちらには……


 …やはり、ヒルメス殿下と共に あの時…───

《おい! そんな事を王弟殿下の前で口走ってみろ!

 即座に首が飛ぶぞ!!》



周りに誰も居ないからか、こちらにも聞こえる音量で話している。


探されている本人は どうして兄も探さないのかと思っていたが、ヒルメスの方は、自ずと気付いていた。

その理由に。



《す、すまないっ! 失言だった!


 …しかし、これだけお探ししてもいないとなると……


 この火事の目的が“ヒルメス王子の暗殺”だというのに、

 関係のないラミアローゼ王女が巻き添えなど……》


『………え……?』



少女は耳を疑った。


あの火事が ただの火事でないのには薄々感づいていたが、

何故なのかまで分かる程、頭は発達していない。


まさかそれが、兄を殺すためのものだったなんて 信じられるはずがなかった。



『そ…そん、な……こんな事…って………


 …兄様を……殺す…ため、に…?』


「………っ…!」



尽くしてくれていた兵士の口から「暗殺」という言葉が放たれる。

度重なる衝撃に、ラミアローゼの心は 崩壊しかけていた。


一方ヒルメスは 自分の暗殺ときいてショックをうけるかと思いきや、歯を食いしばっている。

その所為で、痛みがぶり返してきた顔を押さえながら。



[ギシッ…!]



だが 力が左手にも加わり、掴んでいた木箱にも伝わる。



《! 誰だ!!》


「『!!』」



軋む音が静寂に響き、兵達に聴こえてしまった。



《おい、今の音って…》


《あぁ、この路地からだ。

 行くぞ…!》



男2人は念のために、慎重に近付いてくる。



「(しまった…!

 どうする……このままでは…!)」



少年の 激痛による冷や汗と、焦りの汗が混ざって 地面にシミができていく。



『………』



打開策を 必死に考える兄の後ろで、我に返った妹。

無言で目を見開きながらも、何かを思考しているようだが…


意を決し、子供ながらに真剣な表情になった。

音を殺して 歩みだし、ヒルメスより前に出る。



「…! ラミアローゼ!? 俺より前に───」



視界の端に妹が映り こちらも我に返った兄は、咄嗟に腕を掴んで止めた。

小声で叱りつけるが、またもや彼は 言葉をとめる。


否、止めざるをえなかった。


必然的にこちらを向いた 少女の瞳に、迷いがなかったのだから。



「…っ…ラミアローゼ…?」


『…兄様、大変申し訳ないのですが…


 ここからは、おひとりで逃げてください』


「……はっ!?」



ラミアローゼの言っている事が解らなかった。


いや、理解したからこそ 信じたくなかった。


『1人で逃げろ』ということは【自分を置いていけ】というのと同義だから。



「…なっ…なにを血迷ったことを…!

 お前を置いていけるわけがないだろう!!」


『私は血迷ってなんかいません。


 …兄様の命を繋ぐには、これしかないんです』



唖然とするヒルメスの手を外し、彼女は最後にこう言った。



『…さようなら、ヒース兄様……

 このまま私が死んだとしても、貴方は生きてください。


 大好きな、たったひとりの ヒルメス兄様』



声を出したくても出せない 彼の叫びは、振り向かない妹の背中に 手を伸ばす形で終わった。



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