-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#do【恨みのはじめ】
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所変わって、王宮の外。


既に エクバターナの下段街まで来ていた2人は、離れないように手を繋ぎ 一生懸命走っていた。

片方は 焼け爛れた顔を抑え、空いた手でもう1人を引いている。


どちらも苦しそうな表情で、ヒルメスとラミアローゼは足を止めない。



「ハァ…ッハァッ……大丈夫か、ラミアローゼ…!」


『ハァ……ッ、兄様こそ…ご無理をなさらないでください…っ!』


「…っ……何言ってるんだ…!

 お前だって、火傷してるじゃないか!」


『兄様に比べれば、このぐらいっ…!


 …今は、一刻も早く…ここを出なければなりませんっ…!』


「…!」



妹の手を引きながら、兄は 彼女の言葉に違和感を感じていた。

言葉だけでなく 行動にも。


窓から出て、ヒルメスは誰かを探そうとしたが それを拒んだ少女。

次いで 秘密の崖に備え付けてあった紐梯子で 王宮を出よう、と提案。


まるで【自分達以外 誰も信じるな】とでもいうように。



「……ラミアローゼ」


『はいっ…』


「…何故、王宮を出ようなんて言ったんだ?


 お前はこの火事について…何か知っているのか…?」


『…!』



質問を聞きとり、少し目を見開いて前を見るラミアローゼ。


賢い兄の事だから、恐らくすぐ感付くだろうと思っていた彼女は 一呼吸あけて話し始めた。



『…私が知っている事は、何もありません。

 ただ…気付いたことがあります。

 なにかこう……引っかかるものを』


「引っかかるもの…?」



思わず足を止めたヒルメスだが、ラミアローゼはその状態で 話を続けた。



『…宮の中に あれだけ火がまわっていたのに、兵士が1人も助けに来ませんでした。

 賊の仕業ならなおさらなのに、外から私達を呼ぶ声すらも。

 消火作業に手を取られているのかと思ったのですが、逃げる際に 様子を少し見た時……


 殺気がこもっていた様に、私には見えました』



言い終わり、ギュッ…と繋いだままの手に力を込める。

俯いて 体を震わせ、今にも涙が出そうになった。



「ラミアローゼ…」


『…っ……こんなの…信じられないですよね。

 もしかしたら…私の勘違いかもしれません……


 でも…私……怖くてっ…!』


「………」


『…!』



酷く弱々しい妹を引っ張り、抱きしめたヒルメス。

火傷の痛みでたまらない筈なのに、優しい力で受け止める。



『…に…兄さ…ま…?』


「大丈夫だ、ラミアローゼ。

 俺はお前を信じる。


 …実はこの火事で、お父様も亡くなられた というのをさっき聞いたんだ」


『…え…』



『お父様…が…っ…?』と かぼそく声を漏らし、ついに涙ぐみ始めた。


お互いの顔は見えない状態だが、彼は続ける。



「…すまない、こんな形で 教える事になって……落ち着いてから話そうと思っていた。


 …一応目星はつけていたんだが、お前の考えで“犯人”が確定した」


『……はん…にん…?』



今度は ラミアローゼが兄の言葉を信じられなかった。


いや、意味を理解できない訳ではない。

「誰の仕業」や「犯人」というものから、

【父は 何者かに殺された】という事実を物語っているのが 信じられなかったのだ。



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