-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#yek【さよなら 忌まわしきもの】
3ページ/4ページ




あの後 2人で一緒に遊んだりしていれば、既に夕暮れ。


崖への入口は 外壁の端に生えた1本の木の裏にあり、大きさは子供1人通れるくらい。

なので今までバレたことがなく、ラミアローゼはしょっちゅうそこにいる。

勉強等をほっといて。


今日も戻れば、いつものごとく怒られてしまった。

教育係のヴァフリーズに。


そんな時 向かう場所は決まっていた。



[コンコン…]


「…ん?」



日もとっぷり落ち、月の輝く夜。

ヒルメスに与えられた 離れの宮に、ノック音が響く。


こんな時間に来訪者なんて 賊の可能性が大いにあるが、彼は何者か知っていた。



「おっと……今日もこっぴどく叱られたんだな、ラミアローゼ」


『……ううっ…』



開けた瞬間、ヒルメスの腹部に突撃した少女 ラミアローゼ。

ギュウ…っと抱きつき、軽く嗚咽をもらしている。




「よしよし……俺がいるから、もう泣かなくていいぞ」


『…っ…ふぇっ……兄様ぁ…』



頭を撫でて落ち着かせる彼は、父親に見せるまだあどけない顔と違い しっかりしていて。


妹の前では、少し大人になる兄であった。



「さて、今日も一緒に寝るか。

 明日起きたら、ヴァフリーズに謝りにいこう。

 俺も行くから」


『…っ……はい…』


「いい子だ。ほら、おいで」



ラミアローゼの手を引き、中へ招いたヒルメス。

毎度ここに来るので、寝間着やらは備えつけてあった。


着替えるのを少し手伝い、一緒に寝転ぶ。

夜具がひとつしかないからですよ。



『にいさま…ねむいです…』



泣き疲れたのか、兄の腕にしがみついて 瞼を落とす彼女。



「あぁ……ゆっくりお休み、ラミアローゼ」



空いている手で額を撫で、優しい笑みを零すヒルメス。


そして2人は“いつも通り”眠りについた。


この日常が、最後になるなんて分かりもせずに。



*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ