-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#yek【さよなら 忌まわしきもの】
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それから早くも 9の 年月【としつき】が流れ、パルス暦は304年。


現王は今でも オスロエス5世だが、9年前に女児を産んだ正妃は 既に亡くなっていた。

王はその後 バダフシャーン公国を併合させ、

丁度揉めていた妃話の中心人物 タハミーネという絶世の美女を、後妃に娶る。


えらく不快な話だが、報いを受けろというように オスロエスは現在病床。

どす黒い雰囲気が王宮を漂う中、清々しさが消えたわけではなかった。



‘〜♪ 〜♪ 〜〜♪♪’



王宮からしか行けない 小さな崖。


そこには 色とりどりの花が咲いており、小鳥が遊びに来る 数少ないスポット。

下は 王都の街が見渡せ、景色も抜群。

所謂 秘密の場所だった。


そこから聞こえる 楽しそうな鼻歌。

近くの小鳥の囀りも合わさり、一種の見世物にも思える。


そこに、誰かの足音が近付いてきた。

次いで 合わさる声。



「おーーーい! ラミアローゼーー!!」



男性にしては高めで、元気な声音。

声変わりしていないそれは、少年のもので。


駆けてきたのは、焦げ茶の髪に エメラルドグリーンの瞳の男の子。



『あ…ヒース兄様!』



彼の名は ヒルメス。

現王 オスロエス5世の嫡子で、次期国王候補。


そして ヒルメスを『ヒース兄様』と呼んだ、赤茶髪と薄桃瞳の少女。

さっき少年も言っていたが、名は ラミアローゼ。

ヒルメスより2年後に生まれた、パルス王家の王女である。



『兄様、お帰りなさいませ!』


「ただいま、ラミアローゼ。

 変わりないか?」


『はい! 今日も鳥達と一緒に、ここで遊びました。


 あっ、そうです!

 兄様 獅子狩人【シールギール】の称号授与、おめでとうございます!』



ニコッと笑いかけ、兄の功績を祝う。

ヒルメスは一瞬目を見開き、その後照れくさそうに頭をかいた。



「なんだ、知っていたのか…

 驚かせようと思ったんだがなー…」


『兄様の事は、すぐにこの耳に入ってきますので!


 これ、御祝いに作ったんです。

 出来はよくありませんが、受け取ってくれませんか…?』



後ろに回していた手に握られていたのは、3色くらいの花で出来た冠。

綺麗な円形…という訳にはいかなかったようで、ちょっといびつになっている。


しかし、受け取らない兄ではない。



「何言ってるんだ、貰わない訳ないだろう。

 お前の一生懸命な気持ちが、沢山詰まってる。


 ありがとう、ラミアローゼ」



優しい微笑みで、妹の頭を撫でるヒルメス。

今度は彼女が照れくさそうに、頬を染めていた。



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