-乱世を漂う朱の焔-

□壱ノ巻【京都 旅人と風来坊】
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所変わって、悲鳴が聴こえた現場。



《や、やめてください…! そのお金は大事な…!》


《ほぉ〜? じゃあテメェは、ぶつかった相手に何もしねぇってわけか!》


《そ…それは…っ……》



1人の女性に寄って集って群がる、何人かの男達。

頭の悪い雑魚がしそうな構図である。

だが 数だけは無駄に多いので、相手も戸惑っていて。


周りの住民も怯える中、突如突破口は開かれた。



《そんじゃ、この金はもらって……ぐわぁっ!?》


《《《親分!?》》》



赤橙の旅人【せきとうのたびびと】によって。


彼女は音もなく男の背後を取り、背中を足蹴にした。

拍子に飛んだ お金の入った巾着袋を流れ作業でキャッチし、踵を返す。


向かった先はもちろん、財布の主の元。



『ほい、これ あんたのやんな?』


《はい…! おおきに、ひみちゃん…!》


『ええて。早よ行き、ここ“危ななる”から』


《わかったわ…!》



持ち主に返し、逃げるよう指示した火未。



《痛っ…何しやがんだテメェ!》



その後すぐ、奴の怒号が響く。

予想はできていたので、ゆっくりと振り返った。



『なにて…うちはただ、困ってるお姉ちゃん助けただけやけど?』


《このクソガキ…調子乗りやがって…! テメェら!!》


《《《へいっ!!!》》》



統率制がいいのか 悪いのか、綺麗に少女を取り囲んだ男達。

だが 彼女は落ち着いており、大きくため息をついた。



『…ほんま、ヨソもんのやる事って どいつもこいつもおんなしやな』



左手を 背中のもこもこにまわし、何かを掴む。


穴が空いていたのだろう、毛皮から取り出したのは 赤の番傘。



《傘〜〜? そんなもので、俺達の相手をしようってのか〜?》


『そうやけど。

 なんや、怯えとんの? あんたら』


《なんだと!? テメェら、かかれ!!》


《《《うおあぁぁぁぁ!!!》》》



馬鹿にした笑みを浮かべた火未に憤怒し“親分”は命じた。

迎え討つ体勢の彼女は 柄を両手で逆さに持ち、頭上に振りかぶる。



『火栄律山…岩山昇[がんざんしょう]!!』



そして、地面が割れるほどの力で 垂直に刺した。

何かの力が伝わった足元が 一瞬光り、傘から四方八方に亀裂が走る。


次の瞬間…火未を中心に、周りをいくつもの岩が突き出したのだ。



《《《うわあぁぁぁぁ!?》》》


《岩が、突然…!?》



彼女のすぐ近くまで迫っていた子分達は、即座に全滅。


ポツンと残された親分の男だけが、驚愕の表情を浮かべていた。



『…さて、どうすんの? あんた。

 見ての通り、うちはお前らみたいな“ちょっと武器持ってるだけのヨソもん”でも、容赦せぇへんで。

 今なら、見逃したるけど?』


《ぐっ……!》



それらしくない音と共に、肩に傘を乗せる。

打つ手のなくなった男は、おとなしく降参する…かと思いきや。



《…っ! なめんじゃねぇぞ、クソガキィィィ!!》



懐から小刀を取り出し、向かってきたのだ。



『ハァ……往生際の悪いやっちゃ…』



呆れた溜息をつき 再び柄を両手で握り、左斜め下で構える。


両者がぶつかりあうと思われた、その時…



『!』



突然 火未の視界が暗くなる。

正確にいうと、目の前に誰かが割り込んできたのだ。


かなりの速さだったが、その背中を 見たことがある彼女。



『ハァ…ほんま、人のゆうこと聞いとらへん』



ボソリと小声で零し、構えを解く。



《!? だ、誰だ テメェ!?》



代わりに小刀を受け止めたのは、柄も刀身も長く 両刃の大きな刀を持った青年。



「関係ないとこ悪いけど…女の子に手を上げるのは よくないんじゃないかい?」



先程(一方的にだが)別れたはずの 前田慶次であった。



《(このガキ…女だったのか…!?)》


「怪我は無いかい? 火未ちゃん」


『あんたの目ぇは節穴か? いつうちが怪我したようにみえたねん』


[ウキ…?]


『…夢吉も、大丈夫やから』


「…なんか、俺と夢吉とで対応違くない?」


『やかましい桜バカ』



一言話をするだけで いつものやりとりになってしまう2人。

仲が良いんだか悪いんだか、分からない。


敵を相手にしても まだ続くかとも思ったが…



『…ほんで、なにしに来たん』



「火未ちゃんのお手伝い…って事になるかな?」


『…あっそ。勝手にせぇ』


「[了解!/ウキッ!]」


《!!》



男の驚きが終わる前 一言二言交わし、お互いの武器が交差するように構える。


迎え打つは勿論、たったひとり残された 親分。



《(こ…こいつら、喧嘩してると思ったら 共闘しやがった…!)》


『二対一は卑怯や…なーんて思っとるか?

 それ、こっちの台詞やさかい…諦めなぁよ。


 行くで、慶次!』


「おうよ、火未ちゃん!」



2人同時に地面を蹴り、男に向かって走っていく。

途中で火未は 傘の柄を回し、先から矛先を出した。



《ひっ…す、すまないっ!! オレが…オレが悪かったからっ…!! 助けてくれぇぇぇ!!!》



今になって 彼等の強さが分かり、小刀を落として謝りだす親分。

尻餅もついて逃げ腰になる男は なんとも情けないが、彼女達の勢いは止まらない。



『…今頃遅いわ。潔く堪忍しぃっ!』



次の瞬間、跳躍とともに 傘を振り上げる。

隣の彼も同じ。

振り上げたなら下ろすしかないので、この後どうなるかなど 説明しなくても分かる。



《ぎゃあぁぁぁぁ!!!》



そのすぐ 後【のち】、破壊音の前に 断末魔が響いたという。



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