-乱世を漂う朱の焔-
□壱ノ巻【京都 旅人と風来坊】
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『…なんであんた付いてくんねん』
「いやー、火未ちゃんの宿にお邪魔しようと思ってね〜」
[ウキ?]
『(鬱陶しい……主に慶次が)』
朝に慶次と会ってから、既に昼餉時。
宿に戻ろうと歩を進める火未の後ろに、ぴったりとくっついている彼。
ついでにいうと、小猿君は彼女のもこもこ左肩に。
夢吉は何の罪もないのでいいのだが、問題はみょ〜うに笑顔の風来坊。
火未は、この男が嫌い…とまではいかないが、苦手なのだ。
理由は2つある。
ひとつは 恋だの愛だの言ってくる所。
自身はそんな気など微塵もないのに、会う度 何かにつけて説こうとするので 五月蝿いとか。
もうひとつは、彼が風来坊だという事。
前田家を飛び出して遊びまくっているが、武将としては充分に強いことを 彼女は知っている。
否、初めて会った際に 戦闘は経験済み (祭りの一環だったが)
火未が旅をしているのは 主に自分のためという明確な理由があるが、
力はあるのに それを家の為に使わず、なおかつ逃げまくって遊びほうけている…
そんな慶次を、なんとなく許せていない。
少し偏見も入っているだろうが…とりあえず、彼女の態度が変わるのは まだ先のようだ。
「なぁ火未ちゃん、あんたはいつまで京にいるんだい?」
『お前に話す必要ないやろ』
「え〜? そんな事言わずにさぁ〜!」
『…あんたなぁ〜…いい加減に───
‘きゃあぁぁぁっ!!’
「『!』」
なんの前触れもなく聴こえた悲鳴。
いくら京といえど、ならず者が居ない訳がなかった。
『…チィッ…あんたとおったらロクな事ないわ!
はたおったら邪魔やから、コイツとどっか行っとき!!』
[キィッ!?]
次の瞬間 火未は自分の肩に乗っている夢吉を鷲掴みし…後ろの慶次目掛けて投げたのだ。
[キィ〜〜ッ!]
「夢吉っ!!」
もちろんほっとくわけがなく、しっかりキャッチ。
「大丈夫か?」という問いに [キキッ!]と元気よく鳴いていたので、怪我はしていない様子。
一息ついて前を見た彼の視界には、赤橙髪を大いに揺らす少女が 遠くにいた。
「全く…冷たいんだか優しいんだか、分かんにくいなぁ〜 火未ちゃんは」
掌にのる小猿の頭を撫でながら、ふと 零す。
「…まぁ、そういう所も 好きなんだけどなー……」
*