-霧世に舞い降りし闇水の乙女-

□#Sechs【新たな人生:前編】
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【夢主side.】



心地良い風が、頬を撫でる

目を閉じていても分かるわ……ここが、何処なのか。


瞼を上げると、予想通りの景色

一面に広がる草原、雲がまばらに浮かぶ青空

小鳥の鳴き声、ひらひらと飛ぶチョウチョ


此処は、私の家がある スウェーデンの丘。

元々は私を拾ってくれた メリオローデじぃの土地だけど



『でも…どうして私は、ここに居るのかしら…?』



もう2度と、帰れないと思っていたのに…



‘アルト’


『…!』



私を呼ぶのは誰?


聞き覚えがあると感じながら振り返ると、懐かしい顔ぶれが



『ジョナサン、ウィル…!』



私に波紋を叩き込んでくれた ウィル・A【アントニオ】・ツェペリ

最初に出会ったジョースター家の男 ジョナサン・ジョースター


2人共 死んだ歳と変わらない姿で立っている



「ほっほっほ。久し振りだのうアルト」


『フフッ本当ね。あれからもう100年は経つもの』



自分の髭を伸ばして遊ぶ所は相変わらず

男爵らしい見た目だと思うけど。



「それだけ経っているのに、君はやっぱり変わらないね」


『あら、少しは老けてると思った?』


「まさか……でも、髪色が戻ってる」


『あぁ、これ?

 こっちの世界に来た影響なのかしらね…白のままでも構わなかったんだけど』


「でも、水色の髪も素敵だよ アルト」


『ウフフッありがとう、愛すべき紳士さん』



彼の優しい微笑みに、自然と笑顔を返す

本当に紳士ね…昔から変わらないわ


これが夢だと分かっているけど、久し振りに会えるのは悪くないわね



「それにしてもお前さん、波紋を使って倒れたんじゃろ」


『だって慣れてないんだもの、仕方ないでしょう?』


「開き直れとは誰も言っとらんぞ」


『ヤダもう、お師匠様は厳しい事ね』



やっぱりお見通しよねぇ…あの世からはなんでも見えそうだもの


…あら? じゃあ……



『それを知ってるってことは、遂にお迎えが来たのかしら?』


「違うよ、アルト。君は助かったから、僕達がここに居るんだ」


『? どういう……あぁ』



納得したわ。だってこの2人は…



『…貴方達と私は、波紋の繋がりがあるから…だったわね』


「そうじゃ。何ならもう1度 伝授しても良いが…時間切れのようじゃ」



私の背後を指差したウィルにつられて見ると、私の家があった

それだけなら何もおかしくないんだけど 鍵を掛けてる筈の扉が開いて、中が見えないくらい光り輝いてる


入れと促すように。



『…アヌビス、かしらね』


「良い 幽波紋【スタンド】を持ったね、アルト」


『捻くれ者で 愚霊【ぐれい】だけどねぇ〜』



自分が重傷のまま気絶したことくらいは覚えてる

放っておかれたとしても、死にはしないでしょうけど


でもそれにしたら早いと思うから、唯一回復方法を知ってるあの子が リーダーさん達に伝えたのかも


ほんっと、素直じゃないわね…



『それじゃ、私は行くわ』


「あまり無理はせんようにな」


「お大事にね」


『フフッありがとう』



2人に手を振って、踵を返す


サクサクと草むらを踏み歩いた先の、シンプルな一軒家

表札は「メリオローデ」その下に小さな文字で「イギー」と書いてある


…あの子はもういないけど、どうしても名前を消せなくてね…

ここにいた証に、そのままにしてるの


あの子も天国で元気かしらね…聞けばよかったわ


…さて、そろそろ戻りましょうか


眩しい光の中へ足を踏み入れ、ドアを閉めた。



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