-零下を称す至毒の血-

□#Zwei【魔封街結社:後編】
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『…此処は…』



崩れた道の、更に下。


といっても大した高さではなく、何処かの通りに 何事も無く着地。

所々瓦礫にまみれ、店やビルも崩れている。


恐らくザップ達もこの辺りへ落ちたのだろうが、霧が濃く 人の気配がない。

完全にはぐれてしまったようだ。



『…ザップは兎も角…あの人…探さないと…』



サラリと酷いことを言ってるが、通常運転なので気になさらず。


纏めたテールを解放し、少し整えて。

次につま先をコンコンと 片足ずつ打ち付けると、靴底の一部が裏返り ローラーが。

切り替えれば別の物も出せる、異界特製万能シューズなのだ。


電動で動きながら、レオが飛んでいった方向へ進むイヴィリタ。

遠くでサイレンも聴こえる最中、何かがぶつかった音が前から響く。



『(…あ…スメちゃん…)』



前方に 映像の怪物と、二丁拳銃で応戦しているチェインが見えた。

しかし銃の腕がからっきしなのは、本人からも聞いているので 少し心配になる。



「…お前なァ! もっと働けよ!!」



彼女から離れた所で 図々しく文句を垂れるザップも見えた。

お前が言うなと思っていると、振り返ったチェインが 物凄い顔を彼に向けている。



「…!! 今の見たか!?

 野蛮な闘いはお前らの仕事でしょう、ゴミはゴミらしくとっとと突っ込んで、

 内臓引きずり出された挙句泣きながらなるべく苦しみつつ後悔とともに死んできたらどう?

 って顔しやがったぞオイ!!」


「ああああ今のは僕もそう思いました!!

 怖ぇ…! あの人怖ぇ…!!」



よくも一瞬でそれだけの情報を表情から読み取れるものだ。

要約すると戦えという意味なのだろうが、斬撃も半端なく 弾も効かない相手にどう立ち回ろうか。


一旦下がった彼女を見送って、異形をもう1度視界に入れた時。



『……ん』



銀男が、こちらを見ているのに気付いた。

すると 怪物を2回指差し、次に親指で自分を指す。



『(…合わせろ、ね…)』



合図の意味は「タイミングを合わせろ」


この中で対抗できる戦闘力を持っているのは、紛れもないザップ・レンフロ。

彼が嫌いだからとかで 無視している場合でもないので、素直にコクリと頷いた。



「おい、動けるか!」


「…っ、はい…」


「次にゲートが開く前にケリ着けんぞ!

 俺らが足止めするから、お前は猿を何とかしろ!」



パトリックから渡された銃を それなりに構える少年。

緊張と恐怖で 若干震えながらも。

だが 目を閉じていても、彼の表情が 覚悟を決めたものだと分かった。


ならば尚更、手を抜く訳にはいかない。

左親指の指輪にある三角を、180度回転させた。



「いくぜ…タイミング逃すな」



言葉は後ろのレオにも、離れたヴィータにも言っているように聞こえた。


自らのジッポを取り出し、握る。

銃弾のワンポイント先に付く針が、男の掌に紅を広げて。



「斗流血法【ひきつぼしりゅうけっぽう】刃身ノ壱〔焔丸〕」



口上を始まりに、吹き出た血液が 抜き身の剣を形作る。

特徴的な装飾のそれは、彼らしいと思う。

鞘はないが、居合斬りの要領で構えた。


一方赤毛の少女も、指輪を爪まで上げ 角を人差し指に押し付ける。

弾いたことで プツリと傷ができ、血の球体が指先に。



「走れ、クソ餓鬼っ!!!」



アスファルトに 摩擦で溶けた線が出来る程、超人的な速度で怪物に一直線のザップ。

小猿から振り返り、こちらに気付いた怪物は 手持ちの武器を振り回す。


一触即発に思われるも、彼にとって 倒せない“男”は別に居る。



「[大蛇薙]」



通り過ぎる瞬間に、ありとあらゆる部位を斬り落とした。

通常なら戦闘不能になる筈だが、フェムトの召喚が そんな甘いものではない。


液状になった怪物は、周囲の道や信号機に飛び散る。

そこから1秒も経たない間に、逆再生の如く 身体が戻っていく。


しかし、既に準備は ザップが速度を上げる前から済ませていた。



『…ブレングリード流血闘術・改 −【ひき】1式、毒血塗料[ギフトブルーノファルベ]』



左手を下げることで、袖口に仕込んでいる武器が手元に来る。

刺さりやすいナイフ3本 指に挟んで構え、技の口上を。

シュルシュルと血液がコーティングされていき、赤の刃となる。


あらかじめ予測し、体液が飛んでいきそうな箇所にそれを投げていたのだ。

例をあげると、少なくとも信号機には1つ刺さっている。



「(駄目だ…間に合わない…っ!!)」



元に戻っていく自らの手を、こちらに伸ばしてくる。

恐怖と諦めで、足が止まりそうになるレオナルド。



「立ち止まんなクソ餓鬼」


『…諦めないで』



声が聴こえた。

今ここで止めたら、水の泡になる。


怪物の指先が触れそうになる、その時に。



『…ヴィータの 毒【血】には、抗えない』



振り向かずとも気付けた。

異形の苦しそうな呻きが、耳に届いたから。

腕を引っ込め、汗だくになると同時に 痙攣も起きる。

再生する際に混ざった血で、毒が廻ったからだ。



「俺らをナメてっと承知しねェぞ」



隙を逃さず、焔丸から伸ばした 縛【いまし】めで拘束。

背中合わせに立つ 青年と少女を囲む、細い細い血糸。


男はその始まりに【終わりへの火】を点けた。



「[七獄]」



たちまち導火線として根源は進み、終点で静かな爆発。

再生の余地も与えない高火力で 怪物は蒸発した。


そして少年は、ちから【その眼】で ひとつの 生命【いのち】を救ったのである。



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