-零下を称す至毒の血-

□#Eins【魔封街結社:前編】
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ここで 話を整理しよう。


今現在の状況:オフィス壊滅

負傷者:1名 (街の住民は除く)

死者:無し (街の住民は除く)

原因:堕落王 フェムトの召喚魔術


堕落王は言った。

既に召喚されている半神の半身を 117分(1時間57分)以内に見つけ 破壊しろ、と。


ただし、半身はまだ召喚されておらず ゲートの中。

ヒントとして 13分に一度 1ナノ秒だけ開き、強力な斬撃…まっぷたつパーティーが起きる。


そしてさっきのが、最初の【まっぷたつパーティー】

つまり、オフィス内にいたライブラ以外の者が ゲートだという事。



「テメェ…まさか堕落王の差し金かァ!!」


「うっ…ち、違うっ…!」


「あァ!?」



となれば、真っ先に疑いのある少年の胸倉を掴んだザップ。

背丈と力の関係で 足が地面についていない。



「…手を離すのだ…っ…ザップ…!!」


『…あに様…』



しかし、そこに【待った】をかけたのは 我らがリーダー。

既に応急手当は終えているが、痛くないわけではないので 傍のイヴィリタは心配そうに見る。



「ちょっとは脳みそ使いなさいよ…ミスタークラウスが、危険を感じて庇ったのよ!?」



理由が分かってないクソざ…ザップに、声を荒げて説明したチェイン。



「あ…そっか…」


「ううっ…! ゲッホゲッホ…」



やっと理解した彼は、少年を締めから開放。

しかし穏便に ではなく、物を落とすかのように。

当然 痛みと息苦しさが同時にきた男の子は、蹲るしかない。



『…大丈夫?』


「っ…は、はい…」



近くにいるイヴィリタは そっと寄り、背中をさする。

さっき見たエメラルドが 自分をのぞき込んできたので、少し驚きながらも 返事をした彼。


ちょうど 兄の息も整い、彼は 前を見据える。



「…ゲートの本体は、おそらく……───」



つられて皆も 視線の先を見ると…

少年と共に来ていた…いや、連れてきていた 音速猿。


猿自身に自覚は無いのだろう、崩壊した事務所から逃げてしまった。



「待て 猿!」



すかさず それを追うチェイン。

人狼なので、落下や壁伝いもなんのその。



「結局テメェの持ち込み企画じゃねェか!!」


「すいませっ…! ごめんなさいっ…!

 知らなかったんですほんとにっ…!」



またもや持ち上げて揺すっているザップ。



『………』



もはやどう対応すればいいか思いつかず、ただボー…と見ているヴィータ。



「ああ〜……元、ジョニー・ランディス君」



すっかり調子を取り戻したクラウスは、名前の分からない男の子を呼ぶ。


空気を読んだザップは、彼を床へ下ろした。



「あっ…あぁ……レオです、レオナルド・ウォッチ。

 …嘘をついてすみませんでした、ミスタークラウス。


 助けていただいて、ありがとうございます」



ペコリと、礼儀正しく頭を下げた少年 レオナルド・ウォッチ。

しゃがんでいたイヴィリタも立ち上がり、外の騒音が丸聞こえな元事務所内に 突然緊張した雰囲気が漂う。


それは 我らがリーダーが、何の変哲もない少年を 確信のある瞳で見据えていたからだ。



「…君は……“視えて”いたね?」



何が、とは 先程の邪神の攻撃である。


邪神…つまり、異形の者がいとも容易く扱える、神速を。



「………はい」


「はァ!?」


『………』



彼は少し間を開けて、肯定した。

当然ザップには信じられなく、疑いの声を上げる。


妹はただ、兄と同じく 少年を見据えていたが。



「さっきの攻撃、俺だって目の端で捉えるのがやっとだったんだぞ!

 …!」



抗議を続けた銀髪の青年を、深紅の男は手で制す。



「君の、その眼に関係しているのかね?

 さっき言っていた…どうしても知らなければならない事とは…?」



クラウスは“眼”と言った。

糸目でみえないレオの瞳に、その理由があるのだと 見抜いていたのだ。



「……ちょうど、半年前になります…───」



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