-零下を称す至毒の血-

□#Eins【魔封街結社:前編】
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『(…このままじゃ…彼が…!)』



音速猿に 2番目に近かったヴィータは、まず目の前の少年が危ないと判断した。

それはこの中で、たったひとりの一般人だから。


庇うように手を伸ばしたのだが、ここで一瞬 不安が過ぎる。



『(…そうだ…この人は……解毒剤を飲んでない…!

 …このまま もしヴィータのが付いたら…死んじゃう…


 ……でもっ…!───)』



ヴィータの…つまり 彼女の“血”

それは人間と異形には【毒】となる、特殊な性質。


ラインヘルツ家の長女として誕生したイヴィリタは、家系による特異な血液を 生まれながらに持っていた。

それは【どんな毒にも耐性がある】というもの。

つまり、どれだけ強力な猛毒を盛られようと 毒で死ぬことはない。


その特性は 長年異界の者と戦ってきた一族にとって、奇跡ともいえる代物。

よって、彼女を 血界の眷属【ブラッドブリード】殲滅の為に研究する という事が

ラインヘルツ家 専属研究局からの要請により、決定した。


もちろんそんな事例に 家族の中で反対する者が。

それは イヴィリタより8歳上の兄 クラウス。


しかし 両親は研究の方に付いており、他の兄達も肯定していて。

末弟の しかもまだ成人前であった彼の味方をする者は 誰もいない。


生まれ落ちて1ヶ月も経たない内に、

イヴィリタ・V【フォン】・ラインヘルツは 研究漬けの毎日に身を投じる事になってしまった。


その期間は 10年。

あまりにも長すぎる年月を、血の繋がりがない他人と 自らのホームでもない所で過ごす。

何の面白みもない子供時代であったがため、

今の 感情に乏しい性格も これが影響している、と ギルベルトが言っていた。


では何故、現在はこのライブラにいるのか。


それは、実験が成功した という華々しい結果だからではない。

投薬ミスによる突然変異で 目指した逆のもの

つまり 先程言った【人や異形にとっては毒】で、

【血界の眷属【ブラッドブリード】には至高の血】となってしまったのだ。


あまりに酷い結果となってしまったため、研究チームは解散。

行く宛も住む宛も無くなってしまったイヴィリタだが、

彼女を救ったのが 10年間もずっと気にかけてくれていた クラウスだった。

路頭に迷いかけた妹を、兄妹の中で唯一見つけ出し 屋敷へ迎え入れる。


この時 イヴィリタは自分に家族がいた事を知り、自らを見つけてくれた兄を恨みもせず、感謝したという。

そして 大切な家族の為に、自分の血を目指していたものへと変異させる薬を 日夜開発するようになった。


因みに 戦闘術も様々な人に習い、小柄ながらも強い と評判である。



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