-零下を称す至毒の血-

□#Eins【魔封街結社:前編】
2ページ/6ページ




それから水やりを終わらせた彼は、パソコンをカタカタ…


特にやる事がなく ソファーに腰を下ろしていると、既に紅茶の用意をしてくれていた

ラインヘルツ家専属執事 ギルベルト・F【フランケ】・アルトシュタイン からカップを受け取り、

好物のロイヤルミルクティーを注いでもらう。


絶妙な美味しさに 瞳を閉じて堪能していた時…



「…あ。ミスター・クラウス、これ見てください」



向かいのソファーでスマホを叩いていたチェインが 突然立ち上がり、座っているリーダーの元へ駆け寄っていく。

ちょうど飲み終わり 気になったヴィータは、彼女と逆の彼の側に近付いた。



「今 人狼局の仲間から情報がきたんですけど…───

[カチッ!]


「「『!』」」



何かと思い、クラウスも立ち上がったタイミングで 鍵の開錠音がなる。

自然とそちらに目を向けた3人は、

ドアが開いた影響で起きた風に身じろぐ 見覚えの無い少年を視界に入れた。

『(…誰だろう…?)』と首を傾げている妹の隣で、兄は 待っていましたと言わんばかりに、口を開く。



「ようこそ。

 君が新しい同志か。歓迎しよう」



クラウスは 真っ直ぐ彼を見据え、言葉を続ける。



「クラウス・V【フォン】・ラインヘルツだ。

 左の彼女は イヴィリタ…右の彼女は チェイン・皇…


 よろしく、ジョニー・ランディス君」



兄が自分を紹介している=あの少年は新人さん

というのを理解し、小さく会釈したヴィータ。


だが それと同時に声をあげたのは、彼女以外の もうひとりの女性。



「ジョニー・ランディス? そんな訳ない。

 だって彼…さっき死んだんですよ?」



衝撃の発言が ライブラ内のオフィスを蹂躙した。

目の前にいるはずの ジョニー・ランディスが、さっき死んだという。


チェインが先程 リーダーに伝えようとしたのはきっとこの事だろうが、ならば信憑性は折り紙付き。

彼女の所属する人狼局、そして彼女自身からもたらされる情報は“誠が基本”なのだ。



───…



現在 ジョニー・ランディス(仮)の少年は、絨毯の上でうずくまっている。

【ジャパニーズ DO☆GE☆ZA】というやつだ。



「人違いってバカすぎ!」


「っせェ!! 旦那だって分かってなかったろうがよ!?」


『………』



その前で 彼を連れてきた 殆ど白と焦げ茶の青年 ザップ・レンフロと、チェインが言い争っている。

後ろのデスクを挟んで、クラウスは 写真をひっくり返したりしてにらめっこ。

イヴィリタは特に動いておらず、自分でも見下ろせるぐらい縮こまった少年を、黙って見つめていた。



「ミスター・クラウスはいいのよ。アンタの問題でしょ!?」


「んだっテメェ! やんのかこら!!」


「…死ね!」



未だに言い争いは止まず、リーダーが写真から顔を上げる。

とばっちり…でもないが、矛先が男の子に向こうとした ちょうどその時…


ずっと兄の隣で立っていた少女が、ふいに動く。

くぐもった靴音を鳴らしながら近付いた場所は、土下座している彼の元。

突然の行動に 2人は止まり、3人は目で追う。



少年の斜め前にたどり着いた彼女は、膝を折り 手を置いて少し見つめ、口を開いた。



『…ねぇ、君』


「! は、はい…」


『…どうして…ここに来たの?』


「え…?」



ずっと絨毯を見ていた彼が やっと顔を上げる。

少年の目に飛び込んできたのは、宝石の名を冠した色をした瞳で。


おもわず、喉を鳴らした。



『…人違いって分かってて、ザップについて来たのは……目的があったからだよね…?

 …それを教えて。

 …でないと何も始まらないし、君も来た意味がない。


 …でしょ?』



相変わらずの無表情だが、コテン…と首を傾げて促す。


ヴィータの言った事は 的を得ていたのだろう。

不安そうな糸目が たちまち真剣さをみせ、両拳を作ってもう一度頭を下げた。



「……あの…僕、知りたい事が……どうしても知らなきゃならない事があるんです!

 裏の世界に通じている皆さんなら、分かると思って…!───

[ピッ!]



瞬間、電子音が男の子の言葉を遮る。



〈今、男が ポリススーツによって連行されていきます───〉



音の根源であるテレビを皆で見上げれば、画面に映っている 異形の男。



『…?』


「あ?」


「…さっきの強盗騒ぎ、犯人捕まったのね」


「………」



チェインが補足してくれた強盗騒ぎ というのは、先程街中で起きたもの。

銀行強盗なんて 普通の街でも聞く話だが、当たり前に規模が違う。

実はそのいざこざのお陰で 少年が“偶然に”ここへ来れた事は、その子しか知らない。


それはさておき、ちょうど目を覚ました白い小猿を傍らに 彼もTVを見ている。


というのもつかの間 画面の男が突然呻きだし、突如背中が“割れた”

そこから門の様なものが出現し、さらに半身の異形が 鋭利な武器を振り回して現れる。

勿論凄残な光景となり、少ししてノイズ音と共に 画面の砂嵐。


はれた瞬間 目に飛び込んできたのは…



〈───はははははっ! なーんちゃって!〉


「出た…」



金髪に 口以外を覆う 金属の仮面を付けた男性が、枠いっぱいに映し出された。


予想していた彼等を代表したかのように ザップが零す。



〈諸君、私だ。

 ヘルサレムズ・ロットを支配する稀代の怪人…

 堕落王・フェ・ム・ト・だ・よん!!〉


[ゴンッ!!]



TV(正確にはカメラ)の画面に額をぶつけた男 フェムト。

因みにこれは生放送なので、街中にくぐもった音が響いただろう。


本人が名乗っている通り、彼は【堕落王】

ヘルサレムズ・ロットで この男を知らない者はいない。

それぐらい 色んな意味で“有名”


他にも【偏執王】や【過敏王】などがいるらしいが、それはまた後程。



〈諸君はどうだい? 最近は…僕はまったく退屈しているよ……〉



木製の椅子をキコキコ揺らして、呟いている。



〈それもこれもー全部君達の所為だぞー!〉



かと思ったら、机の上に立って メガホンで叫んだり。



〈口を開けたまま……食べ物が落ちてくるのを待っっている ぶ た・ど・も・よっ!!〉



イスに戻り、林檎を上にほおり投げて 食べて 罵倒。


やりたい放題である。



「ムッカつくなー…」


『………』



そりゃあいきなり とばっちりやら侮蔑やら受けたら誰でもイラつくだろう。

またザップが零すが、ヴィータは若干目を細める。

なんとなく、何か感じた気がするから。



〈だから僕はまた、勝手に遊ぶことにしてしまったよ…〉


『(…遊ぶ…?)』


〈ごめんね〉


「!」


『…!』


「…!?」


「ん!?」



一瞬の間で この場に異質さを感じたのは、合計4名。


順番は、半分だけ猿に近い者から。



[ウッ?]



誰も声を発さず、響いたのは 召喚音と 切断音と 破壊音だった。



*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ