-陽竜志昇記-

□第2回【崑崙のふんわり仙女:後編】
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お昼をご馳走になり、本日の用事も終了。


太乙の元へは明日行くとして、元始天尊への届け出はその後でいいだろうと思い至った。

…普通は報告しなければならないのだろうが、面倒なのである。


もっと話したいとごねられはしたが、また来ると約束して 青峯山を出た。



『………』



とりあえず帰路へつくつもりで飛んでいる彼女。

しかしその表情は浮かない。



『(…なんか…さっきから視線を感じる…)』



じーーっ…と、誰かに見られているような。

明確な証拠はないものの、背中にチクチク刺さる感覚。


思い切って後ろを振り返ってみる、が 青空と雲と岩だけ。



『…うーん…?』



しばらく自分もじっと見続ける。

もしや景色に擬態でもしているのか、と考えて。


そのまた背後から 顔の両端へ手が伸びている事に気付けず。



『きゃっ!?』



次の瞬間、後ろへ引き寄せられ 硬い何かにぶつかる。

続いて人の腕が、肩を包むように巻き付いているのが見えた。



『ちょっ何…』


「…捕まえた」


『…!』



敵かどうかも分からず 抵抗するが、恐らく男の力には効果なし。


だが、一言呟いた声に聞き覚えがあった。

続いて視界の右手首に、自分と同じブレスレット。


ピースを繋げて導き出した答えは、腐れ縁の存在。



「こんにちは、リミ」


『よ、楊戩…!! 普通に話し掛けてくれたらいいじゃない!』


「すみません、驚かせたくてつい…」


『ついって…確かに驚いたけど!』



緑の瞳に 額の赤い石。

空に溶け込むような青髪に映える、美しい顔(自称)


仙人名 清源妙道真君【せいげんみょうどうしんくん】

またの名を 楊戩。


天才道士と名高い彼が、相棒の哮天犬に座ったまま 浮いている彼女を抱きしめているのだ。

引き寄せた拍子に 焚播龍美も座ってしまっているが。



「(…やっぱり意味には気付いてないな…分かってましたが)」



何の理由も無しに、こんな事をしている訳ではない。

少しでも気付いてくれたら、と。


その年月は優に100年を超えているが、全くと言っていいほど 空回りしている。

天才なのに、だ。



『それで、天才道士様がこんなとこで何してんの?』


「貴女を見付けたので、話しかけたんですけど」


『…暇なの?』


「いえ、暇じゃないです」


『…意味わかんない』



名残惜しいが離れ、向かい合って話をする。

少し嫌味の入る言葉も、当然と思っているので反応しない。

そして忙しいのに驚かしてくる謎。



「リミこそ、道徳師弟への用事は終わったんですか?」


『うん、届けものはしたし…え、なんでそれ知ってんの』


「フッ、僕にかかれば造作もないことです」


『あーはいはい…』



前髪をかき上げ、ムカつくくらいのドヤ顔。


言っておくがこれは平常運転。

慣れている彼女は ジト目で相槌を打ち、流す。



「(…本当は最初から見てたんですけどね。弟子との手合わせも、彼と話している時も)」



実は青峯山辺りから、ずっと様子を伺っていたのだ。

つまりスト…いや、尾けていたのだが、どう言っても怒られるので はぐらすことに。


同時に まだ話したこともない相手へ嫉妬する自分もいる。



「何も無いなら、玉泉山へ来ませんか?

 師匠も会いたがってましたし…僕もゆっくり話したいですし」


『いいの? じゃあ明日 幹元山に行く用事もあるし、折角だから 泊まってっていい?』


「良いですよ。ならその前に、龍鏡山【りゅうきょうざん】へ戻りますか?」


『うん! ふふ、楊戩よく分かってる〜』


「僕は貴女の幼馴染みですからね」



お互いの気持ちを理解しているくらいの付き合いで。

伊達に200年の歳月は過ぎていない。

片想いもそのくらいだというのは置いといて。



「さ、どうぞ」


『おっけー! っと、その前に…』



前方へ移動し『よろしくねー哮天犬♪︎』とうりうり頭を撫でる。

楊戩の 宝貝【パオペエ】のひとつ 哮天犬【こうてんけん】

霊獣ではないが 意思を持つため、ぺろぺろ彼女を舐めた。


『あはははっ、くすぐったいよー!』と満更でもない様子を 微笑んで見つめる。

最後に一撫でしてから、ふわりと飛んできた焚播龍美が 後ろに腰掛けた。



「では、行きますよ」


『お願いしまーす!』



翼を片付け、揃って横向きに座る。

2人で何処かへ行く時は、哮天犬に乗せてもらうのが暗黙。


向かうは崑崙山の頂上 龍鏡山 枝束洞【しだばどう】



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