-闇の血の戦乙女-

□2.【闇と希望】
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『移動するとは言ったものの、どこに行こうかしらね〜…

 あの場所、結構気に入ってたんだけど…───』



草原にできた道を歩きながら、顎に指を当て考えている。


暫く歩いたぐらいだった。



‘ワーワー!!’


『…ん? 何かしら、この歓声みたいな…』



吸血鬼なので耳は良い方だが、常人でも分かるくらいに声が聞こえる。

その証拠に…



《おい、もう始まってるぞ! 早く行こうぜ!》


《分かってるよ〜!》



2人の男の子が、自分を抜いて走って行った。



『ふーん…この先でなにかやってるみたいね』



下げていた手を再び顎に当て、少し考える。

暇を持て余す彼女のことだろう。

出てきた答えはひとつ。



『行ってみましょう♪︎』



先を行った男の子達を、慌てず普通に追った。



───…



《おーい 次誰だー!》


《早くしろよー!》


『ふんふん、ここみたいね』



また暫く歩いた先には、建物跡に作られた 五角形の囲いがある。

周りは少年達が声を上げており、試合でも始まるよう。

実際その中で、グローブを付けた男の子と 審判のような人がいるのがいい証拠。

この時代では、このような遊びが流行っていたようだ。



『へぇ〜、ボクシングかぁ〜…楽しそうね。

 まぁ 流石に参加はしないけど』



彼女は草原の坂を降りず、道で立ち止まって見ることにした。

観戦とはいえ、目立ちたくないので。



「続いて紹介するは、ジョナサン・ジョースター!」



実況役も兼ねているのか、名を紹介している審判。

赤いグローブをはめた青髪の男の子 ジョナサンは、拳を掲げてアピールしている。



「彼は最近力をつけてきました!

 そして対戦相手ですが……実はここで変更があります」


「…え?」



思えば、ジョナサンの相手は目の前に居ない。


その理由は、リング外に居たから。



「まだ名前しか知らない、この町に来たばかりの友人です!」


《ん?》


《誰なんだよ?》



審判が手を向けた方へ、観客も体ごと向く。

やがて一線割れ、奥に座っている“彼”へと視線が集まる。



「(ま、まさか…)」



ジョナサンは、審判の言葉で感づいた。

自分が1番戦いたくない相手なんじゃあないかと。


一方アルトは……



『…あら?』



視線が集まった事で、自分の斜め下の存在にやっと気付いた。


見覚えのある、金の髪に。



「紹介します! ディオ・ブランドー君です!」


『(あの子、この前の……なら、ジョナサンっていう子 適わないかもね…)』



いかにも絵になる、という感じに座っているディオ。

彼も、斜め上のアルトには気付いていない。

そのままリングの中に入っていった。



「いいかい? 顔面に1発でも食らえば、その場で負け。

 では!」


《いけ〜 ジョジョー!》


《やっちまえー!》



ゴングが鳴り、2人は構える。


最初に仕掛けていったのは、ジョナサン。



「うぉあー!」



スピード感のあるパンチを繰り出す。

だが、ディオは難なく避けた。

間髪入れずにラッシュを続けるジョナサン。



《な、なんだあの動きは!?》


《見たこともない動きだ…!》


「(あ、当たらない…!?)」



観客にも 殴る者にも追いつけない回避スピードで圧倒。



『………』



番傘を差した女だけは、少し眉を寄せて見つめていた。



「(ジョジョ…コイツ思ったより鋭いパンチだ……だがね!)」



避け続けるディオは 突然左足を力強く踏み出し、

これまた力強い一撃を、相手の腹へ突き上げた。

いわゆるボディーブロー。



「ごっ……おぐうっ!?」



衝撃で口に溜まった唾液を吐き出しかけたジョナサンだが、ギリギリで留める。

しかしダメージとしては強力で、後ろに引くしかなかった。


その隙を 彼は見逃さない。



「(見せてやるぞ…ゴロツキ共がやる、貧民街ブースボクシングの技巧をな…!)」



右拳を後ろへ引き、瞬時に前へ…



「(味わいな!!)」


「ぶぅっ!!」



顔面命中ストレート!!



「入ったァーーー!! ジョジョの負けだーー!」



審判が声を荒らげる。


普通ならこれで終わりだ。



「(まだまだ安心するなよ、ジョジョォ!)」



だがディオは、そんな事で終わらせる“善人”ではない。



『!』



1番遠いながらも、何かを感じたアルト。


次の瞬間…



「(このまま親指を! コイツの! 目の中に突っ込んで! 殴り抜けるっ!!)」



とても些細、でも残酷な仕打ち。

彼の目が潰れても「構わない」と思っているからこそ、できる芸当。



「ぐぁっ…!」



吹き飛ばされ、地を転がるジョナサン。

左目からは、一筋の血の涙が。



《凄い…凄いやつだ!》


《ディオーーー!!》



気付いているのかは知らないが、彼をいたわる者は誰もおらず。

皆【みな】歓声を上げ、ディオに群がった。



『……ハァ…』



ただひとり、駆け寄る事もいたわる事もせず 溜息をついている女性。

理由は簡単、この時代でいう淑女ではないからだ。

もう見る価値もなしという様に、踵を返す。



『…やっぱり、あの子は“善”じゃあないわね』



最後に、金色【こんじき】の者を見やり そっと呟いた。


道なりにではなく、反対側の坂に降りていったアルト。

とすれば、すぐに見えなくなった。

リングの中に居る者には特に。



「…!」



なのに、ただ唯一 目を向けられた金色は振り向いた。

坂の上、数秒前 確かに誰かがいた場所に。



「……… (気のせいか…?)」


《ディオ、どうかしたのか?》


「…あぁいや、なんでもない」



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