-奇石のすべは奇跡を生み出すか-
□Crerk.3【2度目の水辺:後編】
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「イズミ、何かあったら呼べよ」
「コホッ…ありがとう、あんた」
家に戻って買ったものを整理していると、正午近くに。
ご飯の用意はシグに任せて、間にさっきの約束を。
その時、咳をひとつ零した彼女。
風邪かなと思いながらも イズミ自身 準備を始めたので、考えるのをやめた。
「一から説明すると日が暮れちゃうから、簡単に話すよ」
『あぁ、たのむ』
マリが使うことになった部屋の机に、木材を1つ。
まだ裁断もされていない 真新しいものだ。
「コホッ…錬金術は、物質を理解・分解・再構築する科学。
錬成陣に構築式を組み込んで、発動するのが一連の流れ。
…私の場合は、そこを省くんだけどね」
パンッと胸の前で両手を合わせ、次に机へ。
すると 青白い雷のような光が表れる。
『うっ! ……?』
眩しさで目を瞑ってしまい、少しして 徐々に瞼を上げる。
目の前の板には、先程まで無かった文字が刻まれていた。
『これは…わたしのなまえ…』
アルファベットで【マリ】と、まるで彫刻刀を使って綺麗に彫られたように。
ただ手を合わせただけで、物に変化が起こるなど、今まで見たことがない。
『…すっ…すごい…! イズミさん、いまの───』
精神は子供ではないが、探究心はある。
瞳を輝かせ、彼女を見上げたマリだったが…
『…え』
それ以上言葉を続けられなかった。
何故なら、まず目に入ったのは“赤”で。
「うっ…ゴホッ! わる…あの、人を…ゴホッ!!」
『イズミさんっ!!』
口を被う指の間から、ポタリと床に落ちた血液。
次第に支えが効かなくなり、崩れ落ちる。
『…すっ…すぐシグさんよんでくるから!!』
「ゴホッ!…あぁ」
最初に彼が言っていた意味を、今理解した。
風邪なんかじゃないと。
普通の子供なら動けなくなるだろうが、イズミの頼みを思い出し キッチンへ走る。
『シグさん! イズミさんがっ…!!』
「!! すぐ行く!」
曖昧な記憶は頼らず、いい匂いのする部屋に入るとビンゴ。
フライパンで野菜を炒めるシグの後ろ姿に 開口一番で伝えると、火を切って走る。
エプロンを外しながら。
すぐに追うため、廊下を戻ろうとした。
『…!』
リビングのソファを、たまたま視界に入れる。
何の変哲もないが、マリにとって 見覚えのあるものが置いてあった。
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