-奇石のすべは奇跡を生み出すか-

□Crerk.2【2度目の水辺:前編】
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【イズミside.】



2月5日のことだ。


南部は温暖地域だから 雨や雪もあまり降らないけど、その日は嵐でも通ったのか 酷い豪雨でね

カウロイ湖が氾濫でもしていないか、夫と見に行ったんだけど…



「イズミ!!」


「あんた、そんなとこにいたら危ない…」



波の酷い水際で、蹲る彼が見えて 慌てて駆け寄った

怪我でもしたのかと思ったけど、振り向いたこの人は あるものを抱えてて



「なっ…子供!?」



驚いたことに、正真正銘 人間だった

まだ4〜5歳くらいの、小さな女の子


近くにはその子に見合わないくらい大きなカバンと、見かけない形のラケットが落ちている

おそらく荷物なんだろうけど、ここまで運んで来たのか?

それに服も合ってないのか、ぶかぶかだ



「息はあるけど、身体が冷たい…このままじゃ風邪をひくわ。

 あんた、この子の荷物を運んでくれる?」


「あぁ、イズミは女の子を…しかし無理はするなよ」


「分かってるよ」



事は一刻を争う。

夫から子供を受け取って、出来るだけ急いで帰った

でも身体に障ったんだろうね、落ち着いたら血を吐いちまった。


それからやっぱり熱が出て、2日間は看病したの

2月7日の朝になって 様子を見に行ったら、目を覚ました女の子が私を見るんだけど…


何故か敬語だし、ずっと首を傾げてる

親御さんの教育なのかとも思ったけど、私はそういうの好きじゃないし ひとこと言ってやったら…



『な…なんだこれっ!?』



鏡に映る自分を見て、大層驚いてた

顔に怪我をしてたとかは無かったと思うんだけど…



『なんで…からだが、ちぢんでる……それにかみとめのいろも……どういうことだ…!』


「ちょっと、とりあえず落ち着きなさい。

 何があったか、話せる?」


『なに…って……わたし、は……』



掌を見たり 髪の毛を触ったり、さっきから忙しない

病み上がりなのもあるのか 息が荒くなってきた

少しでも落ち着かせようと、背中をさする


…にしてもこの子、今縮んでるって言ったよね?



『……アイツに…もっていかれた…』


「…アイツ?」


『……しんり』


「!!」



聞き間違いじゃないよね…【真理】…だと!?


まさか、この子…!!



『アイツはじぶんのことを…しんりとも、いっていた…

 かみ【神】だの、うちゅう【宇宙】だの、せかい【世界】だの…

 …そう、つうこうりょう【通行料】だって…』


「…お前、あれを視たのか」


『え…?』


「それを知ってるって事は…人体錬成をやったのか!?」


『!?』



気付いたら私は、声を張り上げてた

下手すりゃ外に聞こえるぐらいの大きさに、女の子は固まったまま



『じんたい…れん、せい…!? そんなことやってません!!

 わたしは しつげん【湿原】で、くろいとびらにさわってしまって…

 そしたらあたまにいっぱい えいぞう【映像】がはいってきて…

 きづいたらアイツがいて…つうこうりょう【通行料】をとられて……またきづいたら、すなのうえで……』



必死に説明する様は、嘘をついてるようには見えなかった

この子の言った通りだと、人体錬成をせずに“あれ”を視たってことになるんだろう

信じられないけど、私も真理について詳しいわけじゃないし


…それに、子供の涙を放っとける質じゃないのよ

少し屈んで、頭を撫でてあげる


あの子が生きてたら…この子よりちょっと下くらいかしらね。



「…突然怒鳴ってすまん……とにかく、お互い落ち着こう。

 私の旦那が朝ご飯の用意をしてくれてるから、まずは一緒に食べようか」


『え、でも…めいわくじゃ…』



ぐるるる〜…と、目の前から腹の虫


そりゃ2日間もロクな食事取ってないものね



「子供が遠慮しないの。ほら、おいで」


『…は、はい…』



おずおずとベットから下りた女の子に、手を差し伸べる

恥ずかしそうだが、そっと手を伸ばして 私の掌に置いた



「そういえば、名前聞いてなかったね」


『…マリ・ヒン、です』


「マリか、よろしくね」


『よろしくおねがいします、イズミさん』



やっぱり大人びてるわね、この子…

でも見る限り子供なのは確かだからね、育ち盛りはいっぱい食べないと!


あの人に多めに盛ってもらうよう、頼みましょうか。



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