-奇石のすべは奇跡を生み出すか-

□Crerk.1【湿原の生命樹】
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『よっ…と』


「あらマリ、大丈夫なの?」


『あぁ、だいぶ良くなったよ クレア。

 皆【みな】、キリがいいし ここらで休憩にしよう』


「「「はーい」」」



身体を起こして馬車から降り、仲間に指示を。

パパオを道の邪魔にならない草むらに誘導し、一撫でして 荷物を下ろす。


自分達も近くで敷物をひき、食べ物を並べた。



『お、ファム大農場で買い込んでいた分だな。

 果物いっぱいあるじゃないか』


「わ〜ほんとねー!…って、肉は?」


「農場に肉は売ってませんよ、ル・ジェ」


「え〜〜!? あたしは肉が食べたいのに!」


「休憩に肉食べてどうすんのよ…

 そんな事言ってるなら、にじいろブドウもすずなりチェリーも貰うわよ?」


「はァ!? にじいろブドウはあたしのものよ!!」


『おーいお前らー、喧嘩しなくても全員分あるからなー』


「僕もすずなりチェリーが欲しいな…」


『あぁ、いいぞ。シーベーグは?』


「私はしましまリンゴで」



人が多ければ、それだけ賑やかになる。


恒例の言い争いは置いといて、それぞれ好物のフルーツを。

この世界特有の作物なのだが、名前のままの見た目である。



『食べ終わったら、種をちゃんと置いとくんだぞー。


 それじゃあ、いただきまーす』


「「「いただきま〜す!」」」



自分も好物のしましまリンゴを取り、手を合わせてから 齧【かじ】る。


雑談をしながら食べていると…



‘オイ、お前ら!!’


「「『?』」」



草むらがガサガサと動き、そこから何かが飛び出す。

といっても声が聞こえたので 人間なのだろうが。


赤い髪に 動きやすさ重視なのか、ほぼ上半身裸の男。



「あ、アンタ…バル・ダット!」



種族はセルキーの盗賊、しましま団 団長 バル・ダット。

街道を歩く商人や クリスタルキャラバンの積荷を狙ったりする、面倒な盗人である。



「なによ、わざわざやられに来たの?」


「フンッお前らガキ共に俺が倒せるか!」


「何ですって!? 舐めてんじゃないわよウスラトンカチ!!」


「ちょっと2人とも〜…」



同族であろうとなんのその、気の強いル・ジェがつっかかっていく。

ついでに短気なので ただの口喧嘩からランクアップしそうに。

冷や汗をかきながらも、フォックスが宥めようとする。



『やめろ、お前達』


「「「!!」」」



そこに、元から低音寄りな彼女の声が拡がった。


芯だけになったリンゴから 丁寧に種を取り出して、布で拭きながら続ける。



『盗賊ともあろうものが お供のモーグリを連れてはいても、

 たった1人で敵の前にのこのこ現れる程、バカじゃないだろう?


 何の用だ。話くらいは聞いてやる』



バルの足元には 毛が紫と黒のしましま模様にペイントされたモーグリ アルテミシオンが。


しかしだからといって、戦力にはほぼ成り得ない。

綺麗になった種を包んで 腰のポシェットに入れた後、彼を見据える。



「…用があるのはお前だ、マリ・ヒン」


『…私か?』


「そうだ……これをやる」



座るマリに近付き、水晶の様な石を頭から外して 差し出した。

掌より大きく 淡い空色で透き通っている。



『これは…ミドルクリスタル』


「えぇ!? なんでこんな珍しいもの持ってるのよ!」


「なんでも何も、持ってなけりゃ盗賊なんてやってるか!!」


「ボス、開き直ってどうするクポ…」



ミドルクリスタルとは、持ち運びできるサイズのクリスタル。

名前のままだが 瘴気が蔓延していた以前は、とても貴重なものであった。


それぞれの村や町には必ず1つ以上、瘴気を祓うクリスタルがある。

しかしその力は万能ではなく、1年に1度 ミルラの雫で清めの儀式をしなければならない。

雫をうみ出すミルラの木は、何の因果か 凶暴なモンスターの巣食う土地にしか生えておらず。


であるからこそ「クリスタルキャラバン」が必要だったのだ。



「そういえば…前に旅人を装って近付いてきた時に付けてたね」


「で? そんな大事なものをなんでマリにあげるのよ」



確かにもう要らなくなったが、今まで自分達を守ってくれた代物。

少しトゲを含んで、クレアは問う。

キャラバン達の視線を集めながらも、目的の彼女を見つめて 口を開いた。



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