-黒赤天使の羽は何色?-

□Story.3【大切な約束】
2ページ/6ページ




『う〜〜〜ん!いっぱいうった〜!』



訓練室の自動ドアから出てくると、腕を伸ばす。

やはり、恐怖というものは無いらしい。



『えっとー、このあとってー…』



ゴソゴソとポケットから紙を取り出し、書かれている内容へ目を通す。

ちょうどその時。



‘…イスカ?’


『?』



彼女の名を呼ぶ声が聴こえた。


振り向いた先にいたのは…



『あ!ソーマ!』



銀髪の上からフードを被る少年 ソーマだった。

イスカは彼を見つけた途端、駆け寄っていく。



『ソーマー!』


「…あんまり走ると転けるぞ」


『ソーマ!ソーマ!くんれんおわったー!』


「あぁ、分かってる…(聞いてねぇ)」



そっけない態度に見えるが、これでも心を許している範囲。

自分に接する大人の殆どが、あからさまな拒絶の意志をみせているのだから。



『ソーマもくんれん?』


「俺はもう終わってる」


『そーなんだ!ねぇねぇ、ソーマの じんき【神機】って けん【剣】なんだよねー?』


「あぁ。お前は確か…銃型だったな」


『そー!きょうもバンバンうったよー!』


「…そうか」



7歳児…正確にいうと3〜4歳児の子供が凄い発言をしているが、ニコニコと楽しそうに話す少女を見て、ソーマは少し 頬を緩める。



「…お前も、部屋戻るんだな」


『うん!【きょうはもうおわり】ってかいてたー!』



2人で並んで歩き、廊下を歩く。

自分達の部屋がある階層へ行くため、エレベーター前で止まった。


低い機械音の後、ベルが現階層到着を知らせる。

次に 編み編みした格子が畳まれていき、ドアが開く。



《それでさー、アイツなんて言ったと思う?》


《なんだそりゃ!おかしな話だなぁ…》



中から出てきたのは、若い男2人。

白衣を着ている所を見ると、新米研究者の様だ。



《だろ〜?ほんと笑っちまってさ…っと……》


『ソーマ、はやくはやく!』


「急がなくても、エレベーターは逃げねぇよ…」



イスカは若者の間を走り抜け、少年に手を振る。

彼は急かされながらも、ゆっくり乗りこんだ。


到着した時と逆で、先に格子が閉まる。


次に、扉が閉まるところだったのだが…



《…アイツ、もしかして……》


《ん、どうした?》



すれ違った男のひとりが、イスカを見つめ 零す。



《知らねぇのか?赤い目に黒髪…最近噂になってるガキだよ》


《あぁ…じゃあ隣にいるのが“ソーマ”か。

 あのガキも可哀想だよな。“化け物”と一緒にいるってだけで、変な噂たっちまってなー…》


《《ギャハハハハ!!》》



扉が閉まると共に、陰口を言い出す2人。

どうせ聞こえてないと思ったからだ。



「(アイツら…)」



だが、聴覚が常人より優れているソーマには 聞こえてしまった。

奴らの馬鹿げた発言が。



『…?ソーマ、どうしたの?』


「!…いや、何でもない」


『???』



境遇やオラクル細胞については似ているが、聴覚や視覚は普通のイスカ。

当然声には気付かず、様子の変わった彼に首を傾げる。



「(コイツがあんな事言われてるのは…俺のせいだ……俺の…傍にいるから……───)」



少年は悪くないのに。

何も知らない男達の言葉で、自分の罪だと 思い詰めてしまう。


そして彼は、次の日から“また”独りで行動するようになってしまった。



*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ