-[自由]という名の進むべき道-

□Episode.2【預言なき絶望】
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普通の家屋より広さはあれど、熟知はしている我が家。


父や母のいそうな場所の扉を開けるが、やはり居ない。



『とおさま…かあさま…どこ…!?』



必死になって探す。

鞘を若干引きづりながら。



『…! あしおと…?』



しかし、それよりも大きな 床を走る音が、リッシュの耳に届く。

一瞬 両親かと思ったが…



『(それにしては…らんぼうなきが…)』



疑問が頭をよぎった、直後。



‘いたぞ! 子供だ!’


‘アーディラのガキだ!’


『!?』



黒い装束の見知らぬ男達が、前から現れたのだ。



《子供でも確実に殺せとの命だ! やれ!!》


『っ…!』



恐怖よりも先に 戦闘態勢へと構える。

しかし 父の刀は重すぎて、抱えるだけで精一杯。

おまけに落とさないようにしなければならない宝玉がひとつ。


絶体絶命かと思われた、その時。



‘[タービュランス!]’


《うわぁぁぁっ!?》



突然発動した風の譜術が、男達を襲った。



『えっ!? ど、どうなって…───』



思いがけない事態に 戸惑っていると…



「リッシュ!!」


『あっ…とおさま、かあさま…!!』



敵から奪ったであろう 見慣れない剣を持った父と、

彼に支えられている母が 娘の後ろから駆けてきたのだ。



「リッシュ、大丈夫!? 怪我はない!?」


『わたしはぜんぜん…かあさまこそ おけがを…!?』


「私のことはいいのよ。あぁ…よかった…」



お腹を押さえながらも膝を折り、我が子を力一杯抱きしめる。

突然の抱擁に『おかあさま…?』と不思議に思いながらも、リッシュテルトは抱きしめ返した。



「…リッシュ、私達はこれから貴女に 悲しい思いをしてもらわなければならない」


『(…え…?)』


「刀と宝玉を持って、ここから逃げなさい」



この混乱の中 逃げることは最優先事項となるだろう。


だが母は「悲しい思い」といった。

それはつまり…



『…ひとりで、という、ことですか…?』


「……そうよ」



愛しい両親を置いて、ひとりで…


そんなこと、すぐに理解できるはずも無く。



『い、いやです! とおさまとかあさまをおいてだなんて…!

 それならわたしもいっしょに───

「リッシュ!!」


『!!』



子供であるがゆえの 当然のわがままであるが、父の怒号が遮った。



「……こんな状況なんだ。

 どうか言う事を聞いてくれ、リッシュ。

 宝玉を…ましてや、お前まで失うわけにはいかんのだ」



一旦落ち着いた 敵の攻撃。

背中を向けていた彼が駆け寄り、娘の頭を撫でる。


愛おしいが故に、強いらなければならない選択なのだ。



『うっ…うぐっ………わ…わかり…ました……!

 この2つは、ぜったいわたしません…!』



ぼたぼたと流れ落ちる涙を 自ら拭い、立ち上がる少女。


本当は 最後まで一緒に居たいはず。

しかしそれではダメなのだと、気付いた。



「いい? 屋敷を出たら まっすぐ港へ向かうのよ。

 このホド島から、出航する貨物船があるから。

 とにかくどれでもいいから、船に乗りなさい。

 そうすれば、誰も追ってこないから」


『はい…!』



こくこくと何度も頷く。

その度 止まっていない涙が床に落ちて。



《怯むな! あっちは2人だ!》


「…チッ、もう復活したか…」


「あなた、口調が昔に戻ってますよ」


「フッ…護る為の戦いは 久し振りだからな…」



活気を取り戻しはじめた、黒装束の男達。

父は 若い頃にも経験したものを思い出しながら、剣を構える。



「さぁ、行くのよリッシュ。

 私達がここを通さないから。

 終わったら迎えに行くわ」


「リッシュよ、決して希望は捨てるな。


 たとえ私達に 何があっても」



母も立ち上がり、譜術の陣を足元に。

2人は 娘の頭を、最後に優しく撫でた。



『とおさま…かあさま…リッシュ、ちゃんとまってますから…!!』



大きく礼をし、踵を返して走った。

持ち物を落とさないように。


振り向かないで、裏口へ向かった。



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