-[自由]という名の進むべき道-

□Episode.1【焦がれし者の日常】
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『……また……このゆめ…』



日付は ND1992、ウンディーネリデーカン・シルフ・57の日。


朝日の射し込む大きな部屋。

そのベッドに、1人の少女。

海を思わせる藍色の髪に、紫色の瞳。


創世暦時代に生きたユリアの影の騎士 リュムテ・ワンドルと生き写しなのである。

それもそのはず、彼女はリュムテの設立したアーディラ家 現当主の娘。

名を リッシュテルト・セン・アーディラ。

齢にして 5歳。



『(あれは…いったいだれなんだろう……)』



寝起きの頭でボーー…と考える少女。


と その時…



[コンコン…ガチャ…]


「失礼致します…お早う御座います、お嬢様」


『あ、おはようメルラ!』



少女がメルラと呼んだ女性は、このアーディラ家に仕えるたったひとりのメイド。

何故1人なのかというのも、家の特徴のひとつとなっている。



「朝食の準備が整いましたので、お早めにいらっしゃって下さい。

 …着替え、手伝いましょうか?」


『むむっ…だいじょうぶだもん! ひとりでできるもん!』


「フフッ……では、失礼しました」


『はーい!』



ちょっとした含み笑いをしながら、メルラは退室する。


ひとりのメイドだからこそ、絆というのは他より強固なのかもしれない。



───…



『おはようございます、おとうさま おかあさま!』


「おはよう、リッシュ」


「独りで着替えたにしては、中々早いじゃないか」


『でーきーるーも〜〜ん!!』


「ハッハッハ…」



貴族にありがちな 長いテーブルの端と端に座っている…のではなく、

普通の家にある 4人分の椅子と1つの机で、メイドも一緒に座っている。


アーディラ家は、貴族であって貴族でない。

正確にいうと“肩書き”だけが貴族なのだ。


何故かというのは後ほど説明するが、ひとつ言っておくと…“あるもの”を、護っているから。



* * *



皆での朝食が済んだ後。



「では、今日の修練を始めるぞ」


『はい!』



普通の家よりは少し広い程度の庭。

リッシュテルトと父は、向かい合って立っている。


それだけでなく、各々の手には鞘に入った刀剣が。

因みに真刀ではなく、木刀だ。


お互いに 刀剣の柄に手をかける。

少しの沈黙の後、父が口を開いた。



「どこからでも来い!」



迫力と威厳のある顔で娘に放つ。

リッシュテルトは怯むことなく、地面を蹴った。



『だあぁぁぁっ!』


[カァン!]


「遅い! もっと速く!」


『はい!』



かけていただけの手で柄を握り、刀を抜いた速さで斬りつけた。

父もまた、抜ききる途中で防ぐ。


これは抜刀した速度で敵を斬る剣術【ワンドル流抜刀術】である。

長きに渡り伝えられてきた、アーディラ家 伝統の“ひとつ”

この剣術を習得しているのは、現当主である父と 修業中のリッシュのみ。



「…よし、次は技のおさらいだ。私の後に続いて出すように!」


『はい、とおさま!』



父は刀を鞘に戻し、柄を持ったまま構えた。

カチャ…という小音とともに、刀身を抜く。



「[魔神剣]!」



抜いた過程での飛ばす斬撃。

ワンドル流の[魔神剣]である。


木刀ながらも、衝撃波が出る程のものだった。



『おお〜…!』


「リッシュ、次はお前だぞ!」


『はい!』



彼と同じように構え、抜刀。



『[まじんけん]!』



…したのだが 斬撃が形成されず、途中で消えてしまった。

父は顎に手を当て、考え込む。



「…ふむ、威力がもうひとつだな……もう1回!」


『はいっ!』



それから正午に至るまで、剣術の修練は続いたのだった。



*
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