-人に戻れた屍-
□#002【和解 〜大切な存在〜】
2ページ/4ページ
スーパーで10人分はあろうかという食材を買い込み、帰宅したのは18時過ぎ。
2人で食べる時は、部屋を交互に使っているので 今日はテルの番。
慣れた手つきで野菜を切って 煮込んで ルーを入れて。
あっという間に出来上がったカレーを、テルは人並み リィカは4人分くらい食べてご馳走様。
彼女は 見た目に似合わず、健啖家なのである。
「洗い物は僕がするから、座っててよ」
『そう? じゃあ少しゆっくりしてから帰るね』
リビングに続くドアは開けたまま、水道の音を背景に テレビを付ける。
自室から持ってきたクッションに座るのが定位置。
これまた持参の折り畳みテーブルを絨毯に置いて、ベッドを背もたれに チャンネルを替えた。
〈続いてのニュースです。本日午後5時過ぎ 調味市上空にて、怪奇現象の目撃が相次ぎました〉
20時のレギュラー番組前にあるニュースの時間で、今日の出来事が流れる中 聞き覚えのある土地の名前が。
『(…あれ、此処じゃん……って、これ夕方の…───)』
少しボーッとしていたので、反応が遅れる。
そういえば自分も見たな…と、オレンジジュースを1口。
「終わったよ、リィカ…っ───」
ちょうど洗い物を終えた輝気が、キッチンからこちらに来る。
死角的に見えない位置だったので、表情は分からなかった。
だが 彼の息を飲む音は耳に届き、振り返る。
『…テル?』
「…あっ、いや…何でもない…」
目は逸らし、フードを徐ろに掴む。
手の方は無意識だろうが、その時の事を思い出したのだろう。
冷や汗と 指先が震えているのは、莉衣花からも見えた。
『…テル、おいで』
「っ…」
立ち上がって後ろのベッドに座り、ちょいちょいと手招き。
少し後退りしつつも、諦めたのか しぶしぶ隣へ。
数分 無言の後、彼女は口を開いた。
『…無理に話してとは言わない。
話したくないならそれでもいい。
…でも、“話さないと後悔する”って思うなら 今全部言いなさい』
[言ノ葉の知らせ]で分かっていたとはいえ、経緯までは把握出来ていない。
怪我は無くとも、心配した。
溜め込み過ぎて良い事が無いのは知っているので、少し強めに。
「(…リィカに嫌われたくない……でも、黙っていたって 何の解決にもならないっ…!
だったら、いっそのこと…っ───)」
数分迷った末 拳を握りしめたまま、莉衣花へ向き直る。
「今までごめん、リィカ!!」
『…えっ!?』
突然の大声に吃驚した彼女だが、輝気の言葉は続く。
「僕はリィカに沢山助けて貰ってるのに…何も返してないし、余計に迷惑を掛けてる。
今日のことだってそうだ。リィカが来てくれなかったら、帰るのも一苦労だし…
そうなったのも全部、僕が…僕自身の力に溺れた所為だ」
『………』
自分の非を認めるなど、中学に上がってから無くなっていた。
内心驚きながらも、続きを待つ。
「リィカ……これから僕が話すこと、信じられないかもしれない。
…変な気持ちになるかもしれない。
それでも、最後まで全部聞いてほしい」
濃い青の瞳で、真っ直ぐ見つめられる。
偽りは感じられない。
『…うん、分かった』
誠意を受け取り、深く頷いた。
*