-音と.雷と.宿命と.-

□第0.5話【帰還せし 無限の詠唱】
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X.778年の某日。


魔導士ギルド 妖精の尻尾【フェアリーテイル】にて。



「今日こそ決着つけんぞ、タレ目!!」


「上等だ このつり目!!」



ハッピーが生まれて、ギルダーツがちょうど帰って来ていた頃。

いつものように、しょうもない事で喧嘩をしている少年達。


ひとりは桜色の髪に、白い鱗模様のマフラーがトレードマークの ナツ・ドラグニル。

もうひとりは何故か上半身裸…というかパンツ一丁で 紺髪の少年 グレイ・フルバスター。



「まーたナツとグレイが喧嘩してる…」


「全く…世話が焼けるな」


「あい!」



それを呆れながら見ているリサーナとエルザ。

まだ小さい青色の猫 ハッピー。



「仲がいいもんだなぁ、あいつ等」


「「仲良くねぇよギルダーツ!!」」


「ガッハッハッハッハ!」



ギルダーツは彼等を茶化したが、息の合った否定を聞いて爆笑している。


そんな中、ギルド内に1人の足音が響く。



「いくぞオラアァァァ!!」


「うおぉぉぉ!!」



まさに、両者がぶつかりあう時だった。



[ゴチィィィン!!]


「「「!?」」」


「「っ…痛ぁぁぁぁ!!!」」



なんと2人のぶつかるその隙間に、杖の球体部分が割って入ったのだ。

案の定、ナツとグレイの顔に勢いよく激突。

ぶつかった両者は 顔を押さえて床を転がりまくっている。


一部始終を見ていた者は唖然としていた。

だがその雰囲気をぶち壊したのは、紛れもない“彼女”の声で。



『相変わらずだなぁ ナツ、グレイ』


「っ、誰だよ! …って…」


「お…お前…」


『…ん、なんだぁ? 久しぶりだから、俺の顔忘れちまったのか?』


「…さっ…───

「「「サシェーーー!!!!」」」


『うぉっ…』



ギルドの全員がその名を呼び、ナツはその女性に飛びついた。

周りはすぐ人で溢れかえり、女の帰還を喜んでいる。


彼女の名はサシェ・テル。

肩より少し長めの オレンジ色をした髪。

右目は紫 左目は琥珀の、所謂“オッドアイ”という特異な瞳。


そして、胸元に見える尻尾の生えた妖精。

東洋の春に咲く「梅」の色をした 妖精の尻尾【フェアリーテイル】の紋章。

容姿的には美人の類に入ると、マカロフさえ認めているらしい。


彼女はマスターの補佐を担っており、現ギルド最強の女といわれている。

それもその筈、彼女はマカロフと同じ【聖十大魔道】の称号を与えられた1人なのだ。


サシェ自身はある事情で、世間一般では彼女の別名であり 魔法名でもある

「インフィニティ・アリア」で通っている。


因みに「インフィニティ・アリア」の本名を知っているのは、ギルドの面々・評議院・他の聖十大魔道だけ。



『お前等なぁ…たった半年居なかっただけで大袈裟だろ』


「「半年は長げーよ!!」」


『2人して言うなよ…』



サシェのたった半年発言に即座に突っ込むマカオとワカバ。


すると彼女の元に、1人の少女が歩み寄った。



「たとえたった半年でも……私は、寂しかったぞ…」


『! エルザ、お前…』



赤髪の鎧を着た少女 エルザ・スカーレットは恥ずかしそうに零す。

少し驚いたサシェに、彼女は頬を赤らめながらも 笑顔で顔を上げた。



「…おかえり、サシェ」


『…ただいま、エルザ。

 明日にでも手合わせ、するか?』


「本当か!? 是非頼む!!」



サシェ自身も優しく微笑みながら、エルザの頭を撫でる。

少女はサシェと手合わせが出来ると決まり、とても嬉しそうだ。


そしてギルドの皆も 口々に「おかえり!」と言ってくれている。

それに対してサシェは一言『ただいま、野郎共!』と歯を見せた笑顔で叫んだ。


迎えた皆も サシェ自身も とても嬉しそうに、楽しそうに。



「サシェ! エルザだけずりぃぞ! オレとも勝負ー!!」


「おいナツ! なに抜けがけしようとしてんだよ!

 つーかいつまで抱きついてんだ! 替われよ!!」


「ふざけんな! 誰がグレイなんかに替わるかよ! それにオレが先だ!!」


『お前らな…そんなに騒がなくても、ちゃーんと相手してやるよ。

 もちろん順番でな』


「「よっしゃー!!!」」


『よしよし… (ほんとよくハモるなぁ こいつ等)』



2人も手合わせしたいと名乗り出るが、やはりそこは喧嘩してしまう。

だがサシェに頭を撫でてもらい、同時にご満悦のようだ。



『そういやマカロフは?』


「今は外出しておられる。もうすぐ戻られると思うぞ」


『ん、了解。


 ところでさ───

「サシェーーー! 久しぶりだなー!!!」


『………』



サシェの言葉を遮り 彼女の名前を呼んだのは、通称「オヤジ」のギルダーツ・クライヴ。

女たらしとの噂もある彼は、ニコニコしながらサシェに近付いていく。


そんなギルダーツが彼女に触れようとした瞬間…



「ぐえっ!!」



いきなりジャンプしたかと思えば、そのまま後ろの彼を蹴り飛ばしたのだ。

かなりの威力だったのか、身体の大きいギルダーツが 宙に浮かぶ程。

机や床が崩れてしまったが、ギルドの面々は驚いていない様子。


…どうやら日常茶飯事の事らしい。



「ってて……毎回毎回 なんで俺の顔見たら蹴るんだ!?」


『別に。

 お前の魔法の事考えて蹴ってるだけだけど?

 だから近付いてくるお前が悪い』


「随分と理不尽だな…」


『あ、そうそう……ナツ〜!』


「なんだサシェ〜?」


「(流された…)」



ギルダーツをサラッと流し、何事も無かったように少し離れていたナツを呼ぶサシェ。

手招きされたナツは、駆け足で彼女の元にやって来た。



『…単刀直入に聞こう。

 お前の頭に乗ってるその猫はなんだ』


「今頃かよ!?

 …コイツはハッピー! オレとリサーナで温めて、卵から孵したんだ!」


「あい!」


『うおっ喋んのか!! (リサーナ?)

 お前にしてはやるじゃねぇかナツ! 偉いぞ〜!』


「ヘヘ〜、くすぐったいよサシェ〜」


「「チッ…」」



ナツの頑張りを褒めたサシェは、彼の頭をワシャワシャと撫でてあげた。

少し乱暴な撫で方だが、ナツはとても笑顔で喜んでいる。


それを見ていた何人かが舌打ちをしたのは、2人には聞こえていない。



『そうかそうか〜ハッピーっていうんだな。

 良い名前じゃねぇか! ナツにつけてもらったのか?』


「そうだよ!

 オイラが生まれた時、みんなが笑顔になったからなんだって!」


『なるほど、幸せをよぶ青い猫…ってか。

 俺はサシェ・テルだ。よろしくな、ハッピー!』


「あい! よろしくサシェ!」



自らの親指にも満たないハッピーの小さな手を、サシェは指先で優しく包んだ。

形は違えど、それは“握手”である事に等しいのだ。


最後にハッピーの頭をポンポンと撫でて 立ち上がるサシェ。

一息吐いてナツと、近くにいたグレイ、エルザを見やる。



『さてと…ナツ、もうひとつ頼んでいいか?』


「ん? なんだ〜?」


『グレイとエルザ、お前等も』


「オレも? (てかナツとかよ…)」


「(グレイもかよ…)」


「何だ? サシェ」


『あぁ、ちょっと聞きたい事があってな…───』



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