-神に愛されし者-

□第8.5夜【眠り姫が目を覚ますまで…】
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《命に別状はありません。

 ただ、いつ目を覚まされるか……


 それに目覚められても、すぐには声が出ないと思われます》



医療班の医師は、申し訳なさそうに切り出す。


あれから教団へ帰還し“彼女”はすぐに医務室へ運ばれた。

手術は成功したが、未だに意識は不明。



「………」



輸血の針が腕にさされているシナデを、神田は見つめていた。


否、見ている事しかできなかったのだ。

“あの時期”と同じで…


今から6年前、コムイが教団に赴任する直前。

中央庁はある実験に力を入れていた。


【非適合者にイノセンスを入れる】

今はコムイのお陰で行われていないが、この頃は頻繁に実行されていた。

リナリーも目撃した事があるのだから。


実はその実験に、シナデは巻き込まれていたのだ。


その所為で起きた“ある事故”によって、4年間意識不明に陥っていた彼女。

目を覚ましたのは今から2年前、ちょうどブックマンとラビが入団した頃だ。


シナデが感情や記憶を失くしたのは、その事故が起因となっている。



「……チッ…」



あの時と同じ、見ている事しかできない自分に舌打ちを零す神田。

彼女は白い医療着に身を包み、美しいグラデーションの髪は下ろされ 肩から流されている。



[コンコン…]



そんな時、医務室にノック音が響く。



「………」



神田は何も答えなかったが、程なくドアは開かれた。



「…いたなら、返事しろさ。

 誰もいねぇと思ったじゃんか」


「…うるせェ」



入ってきた人物は 独特の語尾であるラビ。


ここに来たという事は怪我をしたからか、それ以外なら……



「…シナデ、まだ目を覚まさないんさ?」


「…見れば分かんだろ」


「んな言い方無いさ」


「チッ…」



予想はできていたが、彼もシナデの様子を見に来たのだ。

神田の言葉に苦笑いを浮かべながらも、シナデを挟んで彼の向かい側に座るラビ。


暫く沈黙が続くが、ふとラビは 彼女の手を握った。



「…ごめんな、シナデ……結局オレは、シナデに守ってもらったさ。


 守れなくて……ごめん」


「………」



握った手に、力がこもる。

神田は怒るでも咎めるでもせず、黙って見ていた。


無言の肯定……というやつなのだろうか。



「…オレ、これから任務なんさ。

 帰ってきたら、真っ先に会いに来るから。

 ……それまで シナデの事よろしくな、ユウ」


「…ファーストネームで呼ぶな」


「ほいほい……んじゃーな!」



神田の悪態など気にも止めず、ヒラヒラと手を振って病室を出たラビ。


そこから何時間経ったか解らない程、彼は病室に居続けていた。



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