-神に愛されし者-

□第8夜【未来予知とトランプ:後編】
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シナデ達がポテンツァに訪れて、半日が過ぎた。


空は陰り、街灯にあかりが灯りはじめる。



「ちっくしょうっ!!」



突如鈍い音が聞こえたかと思えば、壁に拳を打ち付けているラビの姿があった。



「(オレがもっと早く駆けつけてたら……クッソォ…!)」



歯を食いしばり、悔しいという思いがひしひしと伝わる。



「………」



一方神田は、落ちていた自らのコートを拾い それを見つめた。



───…ご…め…ん…───



脳裏に、攫われる前 最後に見た彼女の顔が浮かぶ。



「(シナ……俺は、お前を…)」



コートを強く握り締めた後、袖を通し 六幻【ムゲン】を背負う。



「おい、ラビ」


「…!」



普段から“バカウサギ”と言っている彼が、名前で呼んだ。

ラビは俯いた顔を少し上げる。



「なにボーっとしてんだ、行くぞ」


「え…でも、シナデの居場所は…?

 ゴーレムは鞄に入ったままだったし…」


「それを今から突き止めるんだろ」



言い放ち、歩き始めた神田。

ラビは遅れながらも付いていく。



「…ユウは、シナデが心配じゃないんさ…?」


「アイツが簡単に殺られる奴だと思ってんのか」


「んな事無いさ!


 …でも、心配なものは心配なんだよ…」


「………」



前を歩く神田が足を止めた。

後ろのラビも立ち止まり、沈黙が流れる。



「……アイツは絶対に死なせない」


「!」


「…それだけだ。

 テメェはどういう考えなのか知らねェがな」


「……オレ、は…」



神田の言葉に口ごもるラビ。


だが俯く顔を上げ、彼の背中をまっすぐ見つめた。



「…オレも、シナデを死なせたりなんかしねぇ。

 ブックマンとか関係なく、オレの意志で守ってみせるさ」


「…さっさとあのガキ探すぞ」


「おう!」



【彼女を死なせない】

それはつまり、自分達が守るから。

彼等は“シナデを守る”という強い思いを胸に、捜索を開始する。


手分けして探そうとした、その時…



《もし…少しよいかの?》


「ん、何か用さ? じいさん」



ラビ達に声をかけてきたのは、みすぼらしい格好をしたひとりの老人。



「急いでいる、他を当たれ」


「まぁまぁユウ…何か困った事でもあったんさ?」


《いや、お前さんらに聞きたいことがあっての……“イリス”のことでな》


「…何!?」


「え…イリス!? イリスを知ってんさ!?」



突然見知らぬ老人から“イリス”の名前が出てくる。

一瞬耳を疑った。

老人は特に顔色を変えることなく、話を続ける。



《ワシはイリスがこの町に来た時からの付き合いでの…廃棄所巡りも一緒に回っておった。

 …じゃが、最近見かけなくなってな。

 それと同時期に、町で未来予知の噂を聞くようになった。


 もしかしてと思っとったら…お前さんらがイリスと争ってるのを見たんじゃ。


 ワシは…あの子のあんな笑い方、今まで見たことがない》



消え入りそうに零し、俯いてしまう老人。

ラビ達は、イリスがそうなってしまった理由を知っている。


彼は“AKUMA”という名の兵器になったから。

千年伯爵の手で。



「じいさん…イリスの事話してやりたいけど、今は時間がないんさ」


《そのようじゃの…引き止めてすまぬ。

 そういえば…イリスの居場所を探しておるんだったの?》


「心当たりがあるのか」



突然口を挟んだ神田に、老人はゆっくりと頷く。



《…あの子は昔から、山に登るのが好きじゃった。

 立ち入り禁止を諸共せず、山に登っては絵を描いていたものじゃ…

 …イリスが行くとするなら、そこなのだとワシは思う》


「行ってみる価値はあるさ…!

 ありがとな、じいさん!」


《…どうかあの子の魂を、光へと導いとくれ…》


「…行くぞ。案内しろウサギ」


「ほいほい……んじゃな」



老人の願いに肯定も否定もせず、2人は町近くの山へと向かう。


おじいさんは神田達の姿が見えなくなるまで、その背中を見送った。



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