-神に愛されし者-

□第7夜【未来予知とトランプ:中編】
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「お前が…お前がシナデを撃ったって言ったな…


 …じゃああれか? シナデへの気持ちは嘘だったんさね」


「ううん、違うよ」


「は?」


「………」



いびつな笑顔が一瞬にして真顔になり、否定したイリス。


少年は話を続ける。



「この際だから教えてあげるよ。

 僕の未来予知の能力はね、この世の万物に適用できるんだ。

 人も 動物も 物も 自然も ぜーんぶね。


 …でもさー、たった1人 適用されなかった人がいるんだ。

 誰だかわかる?」


「…それが、シナデだった…ってことさ?」


「ピンポ〜ン! そういう事!

 おねえさんのことは、どうやっても見えないんだ。

 だからおねえさんを初めて見た時、驚いたよ。

 おにいさん達が来る事は分かってたけど、おねえさんは予知無しで見たんだからさ。


 それにあんな綺麗で素敵な女の人、気にならないわけないじゃん?」


「「(マセガキが…)」」



同じ思考になった2人だが「あ!」と声を零すイリス。



「そうそう 黒髪のおにいさんがなんでコートを着てないか、眼帯のおにいさんは知ってる?」


「(ん? そういや…)」


「…なんのつもりだ」


「なにって…こういうこと♪」



すると、どこからともなくトランプカードを指に挟んで出した。

そしてカードを天に放り投げる。


すると…



[ボンッ!]


「「!?」」



カードは空中で爆発し、その中から黒いコートが出てきたのだ。


紛れもない、神田の団服が。



「ユウのコートが出てきた! 何でさ!?」


「テメェ…」


「驚くのはまだ早いよ? まぁ見てて…♪」



イリスは落ちてきたコートをキャッチし、しゃがんで自分の前にヒラヒラ〜と揺らす。



「ワン…ツー…スリー!」



マジックをするようにカウントし、彼がコートを片手で退かすと…



「なっ…!?」


「…!?」



ラビと神田は 目を見開くしかなかった。


何故ならイリスは…



「ジャジャーン! どう?

 おにいさん達会いたかったんじゃない?


 ……おねえさんにさ」



その手に、路地裏で気絶している筈のシナデ・ミワタヅミを抱いていたのだから。



「「…っ…!/シナデ!」」



一瞬固まっていた2人だが、同時に地面を蹴り イリスの元へ跳んだ。

だが彼は口角を上げ、カードを2枚前方へ投げる。



「盾【シルド】」


「うわっ!」


「チッ!」



盾の絵が描かれたそれは、神田達の攻撃を見事に防いだ。

弾かれた2人は、下に着地する。



「…無駄だよ、おにいさん達。

 未来予知の力を込めたカードには、絶対に敵わない。

 …あぁでも、おねえさんなら効かなさそうだけど♪」



イリスは気絶しているシナデの頬に擦り寄る。


瞬間、下で血管が切れたような音が聞こえた。

紛れもなく、神田とラビである。


少年はため息をつき、呆れた表情に。



「…おにいさん達大人気ないよね、僕みたいな子供に嫉妬するなんてさ。


 そんなにおねえさんの事、好きなんだ?」


「「だったらなん/だ/さ/」」



本人が聞いていないからこそ、即答した2人。

お互い顔を見合わせていたが。


すると、またあの含み笑いが…



「フフフッフフフフフッ…おねえさんは幸せ者だね、こんなに思ってくれる人がいるなんてさ。

 僕もおねえさん好きだけど。


 だからさ…」



神田のコートをシナデに被せ、パチン!と指を鳴らした。


そして…



「おねえさんは、僕が貰うよ♪」



彼女に被せていたコートを勢いよく退かす。



「え…!?」


「…っ!?」


「これ、返すよおにいさん」



バサッ…と神田の方にコートを投げる。


2人は、コートに目を向けている暇などなかった。


何故なら少年が抱えていたはずの“彼女”が、視界から消えていたのだから。



「っ…テメェ!!」



神田が再度地面を蹴り、イリスに突っ込む。



「災厄招来…[二幻刀]!!」



跳ぶ最中 もうひとつの 六幻【ムゲン】で二刀流となり、少年へ斬りかかる。



「フフフッ、二刀には二刀…だよね。

 双短剣【ツインダガ】!」



一方イリスは剣が描かれたカードを取り出し、両手に持って腕をクロスさせる。

紙のそれは見る見るうちに2刀の短剣となり、神田の[二幻刀]とぶつかった。



「貴様アイツを…シナをどこへやった!!」


「…へぇ〜〜、おねえさんのこと“シナ”って呼んでるんだ?

 なんだかずるいなー…」


「テメェに関係ねェんだよ!!」



鍔迫り合いの金属音が響き渡るが、もう1人ここに居る事をお忘れなく。



「ユウ! 一旦どくさ!」


「!」


「ん?」


「劫火灰燼…[火判]!!」


[ドオォォン!!]



神田が離れたと同時に、地面に浮かび上がる ◯火【マルヒ】の文字。

ラビのイノセンス 第二開放“判”だ。


イリスの足元から炎の蛇が出現し、彼に襲いかかる。

蛇はあてもなく牙を剥き、建物を突き破りながらも やがて消えた。



「今度こそ…」


「………」



追いかけた場所で武器を構える2人。


イリスの所存は…



「…フフフッフフフフフッアッハッハッハッハ!!!」


「「!」」



独特の含み笑いは、近くの屋根から聞こえた。

そちらに振り返ると、無傷の少年が腹を抱えて笑っている。



「いやー、すっごい技だったね!

 普通のLv.2以下なら即死だよ! 危ない危ない…」


「(クッソ…余裕ぶっコキやがって)」


「すぐに息の根を止めてやる、クソガキ!!」



ラビは歯を食いしばるが、神田は間髪入れず再度イリスに突っ込む。



「んー…もう少し楽しみたいとこだけど、“タイムアップ”だよ」



少年は目の前にカードを翳し、また口角を上げた。



「移動【テレポト】!」


「「!?」」



次の瞬間、神田の向かっていた屋根に イリスはいない。

あったのは、1枚のトランプカード“ジョーカー”のみ。



「チッ! あのガキどこ行きやがった!!」


「また消えちまったさ…!」



神田とラビはそれぞれ辺りを見回すが、空は既に真っ暗であり 人っ子1人いない。


その時…



‘フフフフッおにいさん達、僕を捕まえてごらんよ?’


「! アイツの声さ!」


‘僕を見つけて倒せたら、おねえさんは無事だと思うよ’


「(シナ…)」


‘でーーも?’


「「!」」


‘タイムリミットは、夜明けまでだよ。

 頭に入れといてね♪

 アッハッハッハッハ!! アッハッハッハッハッハ!!!’



少年の高笑いを最後に、天の声は途絶えた。


神田とラビは、シナデを無事助け出すことができるのか?

そしてイリスを壊すことができるのか?



幕はもう少し、降りそうにない。



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