-神に愛されし者-

□第7夜【未来予知とトランプ:中編】
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───僕の名はイリス。よろしくね、おねえさん達♪───



突然シナデ達の前に現れ、自らの名を明かした未来予知少年 イリス。


それだけではなく、神田とラビにとっては聞き捨てならない言葉を発したのだ。



───おねえさんの事が、気になっただけだよ? フフフッ───



そう言ってシナデの腕を引き寄せたイリス。

少年に対して大人げないだろうが、少なくとも2人は憎悪を抱いたであろう。

感情が無い当の中心人物 シナデは意味が分かっておらず、首を傾げているが。


いつまでそうしているのかと思えば、ふと離れて空いている席に座った少年。

丸いテーブルに椅子は4つ、神田とラビに挟まれ シナデの正面。



「それで、おにいさん達は僕に聞きたい事があるんだよね?」


「ハッ…お得意の未来予知で調べたんだろ」


「まぁそんなとこかな…だからおにいさん達が聞きたい事の内容、知ってるけどね♪」


「……」


「(うわっユウがキレそう…)

 一応言うけど、オレ達が聞きたいのはお前の事全部さ。

 ど? 分かり易いっしょ?」


「うん! 分かり易いね。

 とりあえず順に説明していくよ…───」



少年は自分の事 力の事“全て”を話す。


イリスはこの町の貧民にあたる身寄りのない孤児

毎日町中の廃棄所を巡り、金目の物を探す生活をしていた


ある日のこと、ゴミ箱に捨てられていたトランプを見つけたという

お金にはならないが、遊べるものだったのでそれを持って帰った

その中の1つ、ジョーカーが自分の好みの絵だったので、首からさげることにする


…それからだという、未来予知を見れるようになったのは


最初は自分自身も信じていなかった

でも自分が予知した事は、全て現実になってしまう

初めは天気だとか、ちょっとした出来事だとか、小さいものばかり


だが日に日に大きくなっていき、不幸…つまり“死”の予知も見えるようになっていく

そんな不幸を阻止できるのなんて、自分しかいないとすぐ分かった

だから未来予知を、必要な人の元に届ける事にしたのだ


“カード”という形で。



「…こんなもの、かな。僕のこと、分かった?」


「話を聞くに、そのジョーカーがイノセンスだろうな。

 んでお前は適合者ってことになるさ」


「適合者って? そっちもイノセンスとかの事教えてよ〜」


「分かった分かった…」



今度はこちらの番であり、ラビはイノセンスやアクマについて話す。

普通の人間なら驚くなり信じられないという反応をするが、彼はそんな素振りを見せなかった。


自分に異様な力があるからか、それとも…───



* * *



「…なぁ、ユウ」


「…ファーストネームで呼ぶな」


「オレ達の任務ってさ、イノセンスの回収 もしくは適合者を連れ帰る…だったよな?」


「……だったらなんだ」


「…オレ、放棄したくなったさ」


「………」



時間は過ぎて夕方頃。

イリスの予知した雨は上がり、空はオレンジに染まっていた。


ラビと神田は珍しく並んで座っており、前方を見ている。

ラビは膝に頬杖をついて、神田は腕も足も組んで。

明らかに嫌そ〜うな2人が見ている先には…



「じゃあ僕、おねえさんみたいなエクソシストになれるの?」


『…教団に戻ったら…多分ね…』


「そっか〜…楽しみだな〜!」



噴水の縁に腰掛ける 水色と黒の髪の少女 シナデと、茶髪の少年。

この子供 イリスが未来予知の張本人だと分かり、先程まで問い質していた。

それぞれの質問が終わり、彼を適合者として教団に連れていくことに。

次の汽車までかなりの時間があったので、近くの広場で休憩になったのだが…


なんとイリスは、シナデの腰に抱き付いて離れないのだ。

彼女は気にする事も“出来ない”ので、見ている男達がイラッとしているばかり。



「ちっくしょう…アイツわざとやってるさ!?」


「………」


「あ! おねえさんのイノセンスって、十字架のネックレス?」


『…うん…神幻奏歌【ミューズ・ファンタジア】…って名前…』


「わぁ素敵な名前だね!

 僕のイノセンスってどんな名前なんだろう…!」


「…チッ!」


「うぉ、どうしたユウ?」


「うるせェ」


『…!』



遂にしびれを切らせて立ち上がり、駅と逆方向に行ってしまった神田。



『………』



彼の背中を、静かに見つめるシナデ。


何を思ったのか、彼女も立ち上がろうとするが…



「おねえさん、どこ行くの? 僕ともっとお話しようよ〜」


『………』



ずーっと腰に巻き付いたイリスが簡単に離れる訳もなく、邪魔をされてしまった。



「アイツ!」



それに気付いたラビが駆け寄ろうとした時…



『…イリス…』


「なぁに? おね〜えさん♪」



彼女はただ一言、彼女だからこそ無感情で零した。



『…邪魔』


「「!」」



抱き付いていたイリスも、駆け寄ろうとしていたラビも固まってしまう。

その隙をついて解放されたシナデは、神田と同じ方向に歩きだす。


ラビとすれ違いざま、視線はそのまま紡ぐ。



『…ナビ…あの子を見てて……すぐ戻るから…』


「分かったさ」



ラビは彼女の背中を見送り、少年へ視線を向ける。

イリスはその場でまだ固まっていた。

余程ショックでも受けたのだろうか。



「(ガキにゃあ悪いけど、いい気になったバツさ!

  シナデもスパッと言ってくれてスッキリした〜♪)」



やっぱり大人気ない事を思っているラビ。



「(アイツどんな顔してっかな〜…───!?)」



ただの好奇心のつもりだった。

悔しそうな顔でもしてるのか、辛そうな顔でもしてるのか。

そう思っただけのラビだった。


でも、後ろからかろうじて見えたイリスの口元は…


ニタリと効果音が付きそうな程、酷く弦月の様に歪んでいた。



*
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