-神に愛されし者-

□第3夜【新たな神の使徒】
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用事と称して別れたシナデは、ある人物を探していた。

それは先程まであの場にいた、誰しもが予想したであろう“彼”の事である。



『(…どうしたの…かな…

 …機嫌…悪かったように…見えたし……怪我の事も…あるし…)』



少し俯きながら、ゆっくり廊下を歩く彼女。



‘シナデ’



すると、誰かから声をかけられた。

振り返ると、そこにいたのは…



『…神田…?』



今まさに探していた人物だった。



「…お前、リナ達と別れたのか?」


『…うん……私が…いても…やる事…無いし……神田…』


「…何だ?」


『…怪我…大丈夫…?』


「…あぁ、とっくに治ってる。心配しすぎだ」


『…うん…』



神田はまだ羽織っただけの団服を少し捲り、傷口の包帯を指して促した。

シナデは無表情ながらも、安心した感じの表情に…見えた気がしたらしい(神田が)


ふと、目の前から視線を感じる。

俯いていた顔を上げ、首を傾げたシナデ。



『……神田…?』


「………」



次の瞬間、彼はシナデの左手首を掴んだ。



『…!』



突然の事に 目を少し見開いた彼女。

神田は真剣な…でも不機嫌な表情でシナデを見る。



『…あの…?』


「…お前、あのモヤシと握手してたな……しかも左手で」


『…え…? (…モヤシ…? …アレンの…事…?)』



そう、あの時見ていたのは神田だったのだ。

出会って間もないアレンを“モヤシ”呼ばわり。

いかにも気に入らないという感じで彼女に問いかけた。



『…うん…今日から…仲間…だし……私…左利きだから…自然と……』


「……そうかよ…」



彼は掴んでいる手首に力を込める。



『……っ…』


「…!」



彼女が痛みで眉を少し寄せたに気付き、手を離した神田。



「…チッ、悪かった…… (何コイツに当たってんだ、俺は…)」



そのまま舌打ちを零して踵を返した彼。


シナデは掴まれた手首を擦りながら、神田の背を見ていた。



『……かん…だ…?

 (…怒って…る…?……どうして……今の私には…分からない…


 …でも…こういう時って…確か…)』



〔理由は解らずとも、どうすればいいのか〕

それだけは、彼女の心に宿っていた。

もう、何も知らなかった“あの時”の自分ではないから。


意を決して彼の背中を追いかけたシナデ。



『…神田…!』


「…!!」



彼の左手を掴む。

驚いて振り返った神田。


シナデは俯きながら、言葉を続ける。



『…あの……ごめん…』


「!」



彼女が零したのは、謝罪の言葉だった。

この状況から悪い人間は誰なのかというのは…正直誰でもないと思われる。

神田が悪いとかは置いといて。


ただ、シナデはこういう時 謝らなければならないという考えに至ったようだ。

それが、今の彼女にとって“そう思えた”事で。


神田の手を握っていた手に、彼女の力が優しく込もる。

暫く硬直していたが 我に返り、視線を前に戻した。


顔を赤らめながら。



「……お前が悪いんじゃねェよ…」



そして 掴まれている彼女の手を握り直し、そのまま廊下を進み始めた神田。



『…え…神田…?…どこ…行くの…?』


「自室だ…お前も戻んだろ」


「…う…うん…」



連れられながら、彼を見上げて聞くシナデ。

神田は振り向かずに、自室に戻る事を促す。

後ろで疑問に思っているであろう彼女を察して、彼はこう続けた。



「…明日、朝の鍛練付き合え。

 それでお互いチャラだ…いいな」


『…!』



未だ前を向いて告げた神田。

この言葉に彼の優しさを感じ、彼女は少し表情を緩めながら…



『…うん…!』



いつもより大きな声で、頷いた。



───こうして、新たな使徒の入団は幕を閉じた。


次の幕開けは、彼のいない休日。



*
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