-神に愛されし者-
□第2夜【魔女の棲む村】
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『…神田…どこ…行くの…?……医務室…行かないと…』
「ほっとけ、大した傷じゃない……お前も来い」
『…う…ん…』
黒の教団に帰還した神田達。
彼は帰ってくるや否や、シナデの手を引いてある場所へ向かった。
着いたのは、自室。
神田は荒々しくドアを開け、部屋へ足を踏み入れた。
そして 彼の視線は唯一の私物、砂時計の容器に入った蓮の花に向けられている。
何も変化がないのを見て、神田はホッと息をついた。
『(…神田は…これを…)』
その様子に納得したシナデ。
だが1つ疑問に思い、彼に聞いてみた。
『…神田…でも……どうして…私を…?』
「…あぁ……お前には…───」
彼の言葉を遮って、ノック音が鳴った。
「(…チッ!)」
神田は無言でドアを少し乱暴に開ける。
因みに手は繋いだままです。
そこにいたのは、浮かない顔をしたゴズだった。
「…医務室に、傷の手当てに来て下さい」
「…これくらいどうって事ない。
もう、塞がりかけている…」
『………』
ギュッ…とシナデが繋いでいた手を握る。
驚いて振り返ると、彼女は眉をほんのちょっと下げた表情をしていた。
『…ゴズさんの…言う通り…手当て…しないと…』
「……わ、分かった…」
2人に言われて折れた神田は、廊下に出る。
医務室に向かう間、ゴズが神田達に謝罪と感謝を述べていた。
神田は相変わらずのつんとした態度で返していたが。
それも彼らしいのである。
医務室では、待ってましたと言わんばかりの医療班の人間に取り囲まれた。
シナデは神田が手当てをされている間、部屋の隅で様子を見ながら少し考える。
『(…私…神田が…傷を受けた時……胸が…苦しくなった……これは…?)』
自分の胸に手を当て、あの時の気持ちが何だったのかを考えた。
『(………だめ…分からない……今の…私には…───
「シナデ」
ふと神田に名前を呼ばれ、手招きされたので ゆっくり近寄った。
『…?』
「…お前、あの時のこと気にしてんのか?
…俺が、傷を受けた事…」
『…え…』
一瞬心を読まれたのかと思うほど、完璧ではないが近い事を当てられた。
神田はシナデの様子を見ながらも、言葉を続ける。
「…お前は、何も悪くない…この怪我は俺の力不足だ。
それにすぐ直る……だからお前は、気にするな」
『…神田…』
考えていた事と少し違ったが 彼女の所為ではないというのを伝えてくれた事に、
心が温かくなった感覚になるシナデ。
この気持ちが何というのか、彼女にはまだ分からない。
ただ、言葉だけは、自然と口から出てきた。
『…ありがとう…神田…』
「…あぁ」
シナデは瞼を少し下げ、柔らかい表情で感謝を述べる。
神田もまた、優しい表情で返してくれた。
───こうして、序章は幕を閉じた。
この後の出来事は、次の幕開け…新たな仲間の来訪に。
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