-桜色に染まりし姫君-

□#Quattro【Confessioni di una maschera】
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1人騒いでいたパーチェが、突然ウィディーエの手を引っ張り 前方を走って行った。



「(パーチェ…貴方という人は…!)」


「(チッ、パーチェの野郎…)」



残された2人は 若干顔が強ばっている。



「ふっふ〜ん♪︎……ん?」



一方 姫君を連れていったパーチェは何かに気付き、突然立ち止まった。



『…どうした』


「あれ…リベルタだよね?」


『え?……』


「あう…」



この隙にと言わんばかりに、パーチェの手をはたいたウィディーエ。

彼の方は 残念そうな声を漏らした。



「ハァ…ハァ……おや、リベルタじゃないですか」



後ろから息を切らしながら追いついたルカが、リベルタに話しかけた。

デビトもルカと一緒に走ってきたようだ。


さすがに息は切れていないが。



「…なァんだァ? 珍しくしけたツラしてんな」


「丁度良かったぁ! リベルタも一緒においでよ!」


『………』



いつの間にか後ろに回ったパーチェが ルカとデビトを肩組みしながら リベルタを誘った。

因みに姫君は我感せずという様に、そのまた後ろで見ているだけ。


少し気難しい顔で、リベルタを見つめながら。



* * *



「いっただきま〜す![モグモグモグ…]おかわり!」



とあるリストランテ。


あの後リベルタも共に食事する事になり、今は5人でテーブルを囲む。

パーチェは相変わらずの大食い、デビトはワインを嗜んでいる。

ウィディーエも実質昨日から何も食べていないので、いつもより食が進むようだ。



「ほォら、さっさと食わねェと全部パーチェに食われちまうぞォ? ガキ」


「ムッ…食うし、ガキは余計だ!」


「沢山食べて、元気になってもらわないと…困りますしね」


「…別に、元々元気だっての」


「それなら良いんですが……もし貴方の暗い顔の所為で、お嬢様が心を…───」


『(あー…うるせぇ)』



いつもの小言でリベルタを脅すルカ。

姫君はウザそうな顔をしながらも、黙々と料理を口に運んでいる。


と、その時…



《火事だ! 火事だぞー!!》


「「『!』」」



───…



街の一角 燃え盛る炎が火の粉と共に、空に向かって上がっている。


現場では既にノヴァ達【聖杯】が、逃げ遅れた住民の避難に当たっていた。



『………』



炎で溢れる家屋を見据えた後、ルカ達より1歩前に出たウィディーエ。



『ノヴァ、聞こえるか!』


「! なんだ、ウィディーエ!」


『お前等【聖杯】は、このまま避難を煽れ!』


「あぁ…分かっている!」


『ルカ達はこれ以上被害が拡大しないようにと、野次馬を抑えろ。


 火は…俺が消す』


「「「はい!/おぅ!/あァ…」」」



突然にも関わらず、幹部達はそれぞれ指示通りに動く。

ウィディーエの方は上着を脱ぎ、左腕の袖を肩まで捲った。

彼女の左肩には、漆黒のスティグマータ 悪魔【イル・ディアヴォロ】の紋章が刻まれている。


左手を炎の方へ翳し、右手は紋に添えて 目を瞑る。



『(燃える住居は一軒、炎のみを特定……よし)

 いくぞ、危ねぇから離れてろ!』



特定が終わり、瞼を上げて周りの人間に促す。

そのまま、発動の言の葉を紡いだ。



『アルトメイ・シュミリスフォーゼ!』



彼女が叫んだ瞬間、目の前で燃え盛る炎は 桜色の粒子となって空へと舞う。

前に車を消火した時もそうだが、見ている人間は皆 唖然とした。

だが今回は夜の為か、空に上がる粒子が幻想的に輝き 見惚れる者も多々いる。


ウィディーエのアルカナ 第15のカード 悪魔【イル・ディアヴォロ】の能力は、別次元の干渉。

別の次元へ物や無機物を送ったり、そこで留めたり 取り出したりできる。

普段は自らの武器である槍や、銃弾のストック等をしまっている。

今回もその能力で炎だけに力を使い、見事消火したという事だ。



『…なんとかなったな。被害とかはもう無いか?』


「はい、問題ありません。

 姫様の早急な消化のお陰で、怪我人も出ていませんしね!」


『そうか…後の処理は【聖杯】に任せる。俺がやるよりはマシだからな』


「了解した……感謝する」


『別に……ん、リベルタはどうした?』



辺りを見回し、先程までこの場にいたリベルタが居ない事に気付いたウィディーエ。


するとノヴァが知っていたのか、口を開いた。



「…あの馬鹿なら、消火中に腑抜けた顔をして帰っていった」


『腑抜けた…?』


「あぁ、心此処に在らず…という顔だった」


『…そう……』



ノヴァの言葉を聞いた後、館への帰路に視線を移したウィディーエ。



『(…何事も無けりゃいいがな…)』



何かを案じ、そのまま踵を返して幼馴染み達の元へ戻った彼女。


その思いは、正に的中していた。



───こうして、姫君の日常は幕を閉じた。


次の幕開けは…リモーネ・パイ?



*
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