-相容れぬ者への恋-

□#1【揺らがぬ恨みを秘めし者】
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5月の半ば頃 ある日の空座町。

午前6時32分。


早朝と言える時間帯 どこかの屋根上に、ひとりの人影。

その家は 大きな敷地にぽつんと佇み、1階の屋根には【浦原商店】と書かれた看板。

さらに上の階 2階の屋根に 先程の人影…銀の髪に、ワインレッドの瞳の少女。


鳥のさえずりが聞こえる中、少女は目をつむって座り込んでいる。

ただボー…としているのかと思えば、やがて彼女の周りに 雪のようなフワフワした物体が現れた。


ある程度出現した後に瞼を上げ、掌を空に向けて前に差し出す。

そこには、羽根がのっていた。

周りを漂っている物体が その羽根へと吸い込まれていく。


全て吸収した“それ”は霧状になって、消えた。



『……ふぅ…』



疲れた…というのではなく、ひと仕事終えた風で息を吐く少女。


というのも束の間…



「オーーイ楚理依〜」


『…!』



乗っている家屋の、玄関辺りからの声。

そちらへ顔を向けると…



『あ、喜助様』



【浦原商店】店長 浦原 喜助。

ストライプの帽子 甚平に下駄と、珍しい格好の男性である。


そして、彼に呼ばれた少女の名は 小古年 楚理依。

服装は、空座第一高校の制服。



「朝食出来ましたよーって、鉄斎サンが」


『分かりました、すぐ行きます』



屋根から立ち上がり、躊躇いもなく飛んだ。

軽やかに危険もなく、喜助の隣に着地。



「…霊子吸収、してたんスか?」


『はい。今日の霊子は濃かったので…』


「朝早いっスね、楚理依は」


『喜助様が遅いだけでは……って、今日は早起きですね』


「なんか目が覚めちゃったんスよ。

 それより、今失礼なこと言いませんでしたー?」


『気のせいです。

 さ、鉄斎様達が待ってますから 行きましょう』



スタスタと彼より速く店の中へ入っていった楚理依。

その後ろ姿を見ながら少し口角を上げ、帽子を被り直す喜助だった。



───…



午前7時12分。



『では、行ってきます』


「いってらっしゃいませ、楚理依殿」


「いってらー」


「…早く…帰ってきてね…」


「いってらっしゃい、楚理依」



上から 眼鏡の大男 握菱 鉄斎

赤髪つり目の少年 花刈 ジン太

変わった前髪のツインテ少女 紬屋 雨【ウルル】

さっき説明した 浦原 喜助

の順に“いってきます”を返していく。

皆【みな】に向けて少し微笑み、踵を返して突然跳躍した。


だが、ただのジャンプではなく。

彼女の背中へ白い球体が集まっていき…文字通り【翼】になった。

もちろん形だけのものではなく、楚理依の体は宙へと浮いている。


そのままどんどん高く飛んでいき……

ビルよりも上の、地面を歩いている人間には見えない高所へと至った。



『(このぐらい高く飛ばないと、誰かに見られてしまいますからね……)

 さて、行きますか…!』



一旦停止していた所から、背面跳びの要領で旋回し 先へと飛んでいく。

スピードは鳥と同じくらいのもの。

だがそれでも速い方なので、目的の場所にはあっという間に着いた。

空座第一高校の屋上に。


ゆっくり静かに、一度羽ばたいた後に着地。

背中にある翼は、羽根に分散しながら やがて消えた。



『ふぅ……』



瞳を閉じて一息をつく。

続いて瞼を上げ、一応周りを確認してから 校舎に入る鉄の扉を開けた。



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