-離れてしまった者との想い-

□#1【振り子は戻る】
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尸魂界【ソウル・ソサエティ】に、日付や年月の概念は少ない。


何故なら“必要がない”からだ。

なので、今日が何年何月何日なのかなんて 調べでもしないと分からない。


でも、日程は決まっている。

本日が【新隊長就任の儀】だと。



* * *



静まり返っていた 一番隊隊舎。

そこに、1人の床を踏む音が聞こえる。


因みに今は早朝といえる時刻。

つまり出勤…いや、出隊前である。



『今日の重國様の御予定は…と。

 新任の儀の後は、通常業務で……』



クリップボードに字を書きながら歩く 死覇装の女性。


赤より明るい緋色の髪に、琥珀の様な金の瞳。

長髪故に、高い位置で一纏めにしており 前髪にはこれまた金の髪留め。

形はクロス型だ。


彼女は、一番隊 第二副隊長を務める 採錬 文。

その証に左腕…第一副隊長や他隊の副隊長とは逆位置に、副官章を着けている。


どうやら110年前の第二副隊長は、今のように外の仕事が主だというわけではなさそうだ。



『失礼しまー……って、誰も居らっしゃらないですよね…』



大きな扉を開け、隊首会が開かれる部屋へと足を踏み入れるが…

いくら今日が新任の儀でも、こんな朝早くから来ている隊長格なんていない。


たとえ総隊長でも、歳が歳だ。



『(…まだ早すぎましたし……掃除でもしましょうかね…!)』



『よし!』と両手拳を握り、クリップボードを置いて掃除を始めた文。

布を片手にあっちこっち。

総隊長の座る椅子…窓枠…扉……etc.

拭けるもの全てキュッキュッキュ〜と。



『ふぅ! こんなものですかね…』



気付けば、部屋中ピカピカになっていた。



『えっと、今の時間は…───』



彼女がどのぐらい時間が経ったか確認しようとした時、扉が開く音が鳴る。

つまり文を除いて一番乗りの隊長格。


それは…



「おやァ? おはよう文ちゃん。

 一番乗りかと思ったんだけどね〜…」


「まぁそう言うな、京楽。

 採錬、おはよう。流石に早いな」


『お早う御座います 京楽隊長、浮竹隊長』



文が深々とお辞儀をした彼等。


隊長羽織の上に桃色を基調とした、女物の着物を羽織る男性。

八番隊 隊長 京楽 春水。


白い髪を首ぐらいの位置で結っている、長髪の男性。

十三番隊 隊長 浮竹 十四郎。


現隊長格の中でも、古株といえる程長く隊長を務めている人達だ。



『いつもお早いですね、お二方』


「そりゃあ、毎日豪快に起こしてくれる子がいるからね〜…」


『…あ、そういえばリ───…!!』



言葉を紡いでいる最中、瞬歩特有の音が響く。

次の瞬間…



「おはようさん、文」



誰かの声が、彼女の後ろから聞こえた。

これまた刹那、先程より大きな音の瞬歩が起きる。


だが音の根源は、後ろにいた人物ではなく 文からだった。



『ハァ…ハァ…ハァ……!!』



肉眼で見えるぐらいになった彼女は、何故か息が上がっている。

胸に手を当て、俯いていたが 落ち着いた頃に顔を上げた。



「う〜んやっぱ瞬発力と反射神経はえぇな、文。中々成功せぇへんわ」


『…リ…リサちゃん!! 一体何してるんですか!!!』


「何って、文の着痩せしてわからんけど実はデカ───

『それ以上は言わないで下さい!!!』


「…聞いといてそれかい」


『聞いたんじゃないです!!』



片方は涙目、もう片方は真顔で (一方的だが)言い合っている2人。

勿論涙目なのは文の方だが、真顔なのは眼鏡をかけ、黒髪を三つ編みしている女性。

八番隊 副隊長 矢胴丸 リサ。


知っている人は知っていると思うが、リサは女性の体に興味があるという趣味(?)がある。



『というか! 場所を考えて下さい!!』


「じゃあ別んとこやったらええんやな?」


『ちっっがいます!!! はぁ……もういいです。


 …すみません、お二方…お見苦しい所を…』


「いや、気にするな」


「そうだよ〜……むしろ続けてくれても…」


「京楽」


「…だよね、ごめんごめん」



決着のつきそうにない言い争い(?)に見切りをつけ、隊長2人に頭を下げる第二副隊長。

勿論いざこざで叱責するような方々ではないのだが、京楽隊長はおかしな事を口走った様だ。



『(京楽隊長、何か仰られたような…?)』


「(まったく…世話のかかる隊長や…)」



それをあなたが言うか…みたいなツッコミは置いといて。


少なくとも、1番聞こえちゃいけない人には聞こえていなかった様だ。



「…さてと、儀まで時間があるから、俺達は隊舎を廻ってくるよ。な? 京楽」


「うん、そうだね〜…ほらほら、リサちゃんも」


「え、アタシは…って引っ張んなや!」


『は、はい……また後ほど〜…?』



何を言ったか分からなかったと思えば、浮竹を筆頭に 会議の間を出て行ってしまった。



『(意味が…分かりません…)』



文にしてみれば、謎続きで頭が混乱しそうになったらしい。



*
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