-孤独の戦士-

□code.16【過去は過去 今は今】
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今から4年程前の話だ。


近界【ネイバーフッド】の惑星国家のひとつ カルワリア。

遊真とその父 有吾は、旧知の仲のよしみで 防衛に力を貸していた。



「おれは親父にそこそこ鍛えられてたから 戦闘でもまぁまぁ役に立ったし、半人前なりにうまくやってたよ」



スピンテールという国の侵攻を受けながらも、なんとか保っていたところ。



「おそらくは、黒【ブラック】トリガー…」



相手が雇った刺客はおそらく、強大な力を持つ黒【ブラック】トリガーだと。

手練のトリガー使いが ほとんど抵抗も無く殺られていたことから予想された。


腕は悪くないが、まだ子供の遊真には危険。

親としても心配なので、砦の中で待機と言い付ける。



「おれが裏を突いて、敵の部隊を崩す」



しかし彼は言いつけをまもらず、トリガーを起動して 戦闘に参加しようとした。

相手の背後へ回り、撹乱するために。


残念ながら、それは叶わなかった。



「バカ、なにやられてんだ。ちょっと待ってろ、俺がすぐ助けてやる」



不幸にも 正体不明のトリガー使いに生身も酷く傷付けられ、遊真は瀕死の重体となる。

すぐ治療しても間に合わないくらいの。


有吾は慌てることなく、光に包まれる。

自らのトリオンを注ぎ込み、黒【ブラック】トリガーを作った彼は 砂になって崩れた。


一命は取り留めたが、肉親を失った少年。

大人達の取り繕った嘘を、受け継いだ 副作用【サイドエフェクト】で見抜くこともできた。


それでも防衛を最後までやり遂げ、戦争は集結。

レプリカの勧めで、遊真は 玄界【ミデン】へやって来たのだった。



「おまえ、これからどうするつもりだ?」



話し終わったタイミングで、迅は彼に聞く。

きっと未来視で視えているだろうに。

いつの間にか、こちらを向いていた白少年。



「そうだな…こっちだと 近界民【ネイバー】は肩身が狭いし…親父の故郷だけど、おれがいるところじゃないな。


 おれは…むこうの世界に帰るよ」



薄々決めていたことなのだろう。

ちょっとやそっとじゃ揺らがないような瞳で。



「おれがこっちに来た理由はもうなくなった…これ以上いても、ゴタゴタするだけだからな。

 …けど、この何日かは面白かったな。久々に楽しかった」



どうすれば彼のタメになるのかなんて、一概に決められない。

嘘の無い笑顔が迅の後ろから見え、目を細める。


自分には何も出来ないのだから。



「…そうか。

 これからもきっと、楽しいことはたくさんあるさ…おまえの人生には」



濁す言葉も十八番。

それが能力故の言い回し。


コップを傾け 最後まで飲み干すと、鮎は立ち上がる。



『ゆーま』



歩きながら、話し掛けた。

気付く少年の右隣へ、縁から足を放り出し 座る。


因みに服装はいつものダウンとジーンズなので冷たくはない。



『帰る帰らないはお前が決めることだ。


 ただ…ひとつ、昔話を聞いていかないか?』


「むかしばなし?」


『あぁ…空から落ちた、銀の民の話』



暗闇に輝く月を見上げる彼女の髪が、風でふわりと靡く。

遊真はその横顔と言葉に、偽りを感じなかった。



「……」



止めはしないものの、珍しく真剣になる迅。

少女の背中を黙って見つめていて。


数秒間の後、俯いた顔が上がった。



「…うん、聞く」



遠慮してもよかったのに、彼は承諾。

もう1度外へ 足を投げ出す。

仮峰としては嬉しい反応。



「おれも聞きたいな、アユちゃん」



さて、話始めようと思った矢先 反対側から聞き慣れた声。

じろり横を見れば、自分達と逆方向に座る青年。



『…お前には前にも話しただろ』


「良いでしょ、減るもんじゃないし…むしろ増えるし!」


『ハァ…勝手にしろ』



この際“関係”を隠さないことにした。

もし帰ってしまうのであれば、あまり意味が無いだろうし。

お互い異論はないらしく、言外に理解する。

その証拠に、動揺も指摘もしない。



「(…ふむ? この2人、こんな仲良かったっけ…?)」



当然違和感を感じる遊真。

何しろ目の前で自己紹介してるのを、数時間前に見た筈だから。


それはさておき、彼女の昔語りが始まった。



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