-孤独の戦士-

□code.14【Welcome to Tamakoma!:前編】
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「待ってください迅さん! 空閑をボーダーに入れるって…!」



カンカンというお馴染みの音を背景に、思いがけない提案。


城戸に利用出来るとも 林藤にやり方は任せると言われていたが、元も子も無いのではないか。



「おっと、別に本部に連れてくわけじゃないぞ。ウチの支部に来ないかって話だ」



紛らわしい言い方をしたものだ。

勿体ぶるところは、性格の問題だろう。


遊真を見る修だが、彼は何も言わず 次の言葉を待った。



「ウチの隊員は 近界民【ネイバー】の世界に行ったことあるやつが多いから、おまえが“むこう”出身でも騒いだりしないぞ。

 とりあえずおためしで来てみたらどうだ?」



ボーダーが出来る前からの隊員もいるので、嘘ではない。


斜め横で腕を組むアユは、いつものように睨んでいる。



「ふむ……オサム達も一緒ならいいよ」


「なっ…く、空閑…!」




騙すつもりはからっきし無いが、いってる男が男なだけに怪しい(偏見)

断ってもいいのに「いいよ」と“だけ”は言わなかった。



「よし、決まりだな」



2人は肯定もしてないのに、なにが決まってるんだろう。

…実際興味もあったから、否定もしなかったのだろうが。


とりあえず、迅の所属する【玉狛支部】に向かうこととなった一行。



『………』



ただひとり 元支部隊員の彼女は、静かにこのやり取りを見届けていた。



───…



玉狛までは、もう少し距離がある。

先導者は変わらず、雑談しながら移動中の折。


唯一同年代の輪に入らず、頭1つ分以上大きい青年の横を歩く薄黄の少女。

2人の時はよくあるものの ただでさえ(表面上は)知らない仲なのにどうしたのだろう。

一瞥すると、スマホでぽちぽち文字を打っている。


少ししてポケットから振動、これは自分の携帯。

表示された通知を見て、なるほど…と納得した。



『〈おいじん、お前何考えてる〉』



紛れもなく隣のアユから。

トーク画面に彼女らしい口調で、声に出せない疑問(?)を投げ付けられた。



「〈遊真の事? 別に裏なんて無いよ。

 その方があの子達のタメになると思ったからさ。

 おれのサイドエフェクトがそう言ってる〉」



すいすい返信する顔はニヤケている、半分くらい。

文字でもやり取り出来るのが嬉しいから。

歩きスマホ良くない、はこの際置いといて。



『(あの子“達”…)

〈結局は未来が視えてたんだろうが。一言も聞いてないぞ〉』


「〈ごめんごめん〜! 許してよ〜アユちゃん〉」



いつも未来を変えられる人間くらいにしか、詳細を話さない。

そして自分には、その可能性や資格がないのも知っている。


わかっていても、苛立ちは消えないのだ。

てへペロ的なスタンプで更に。



『(この野郎っ…!)』



癇に障る絵柄だった為 頭にキて、こちらも憤怒全開のスタンプをぽちぽち送りまくる。



「(アユちゃん…?)」



最後尾の千佳は、妙によく動く親友が見えて ひとつ汗をかいた。



『〈…それで、このまま私もついて行っていいのか〉』



気が済むまで連打した後、大きな溜息を吐いてから 本題に戻る。

そもそも迅と嘘っぱち自己紹介するなんて聞いてなかったし、支部に行くなんて以ての外。



「〈大丈夫、前から全員に伝えてあるよ。

“お客さん”がいる時は、アユちゃんと初対面のフリをしてくれって〉」


『〈…そうか〉』



ハッキリ視えなくても、彼女のための手回しは抜かりない。


だからいつもみたいに『無駄に手ぇ回しやがって…』とか言われると思ったが、反応が薄め。



「〈…寂しい?〉」



冗談半分で聞いてみた。



『〈…まぁな〉』


「(…え…)」



まさかの大当たり。

びっくりして横を見た迅、タイミング良く鮎も同じ方を。


視線が交わって、睨みつけるのかと思った。

でも怒りはしなく、口角は少々上がる。

だけど眉は下がり 無理して笑っているような。


こんな彼女、見慣れていない。



「っ…!(ヤバイ、視えなかったし珍し過ぎて不意打ちなんだけど…!)」



未来視は役立たず、加えてレア。

慌てて反対側に向き、心臓に手を当てる。

我ながらドキドキと高鳴っていた。


なんとか落ち着かせた後、再度スマホに向き合い 指を滑らせる。



「〈…おれがいるから〉」


『〈…は?〉』



一瞬コイツなに当たり前なこと言ってんだと聞き返してしまうが、フキダシは続く。



「〈初対面って形でも、もうおれと知り合ってるから。

 だからおれとは普通にしてくれていいからね〉」


『(じん…)』



普通というと対面1番に殴りかかったりもするが、物理の方ではなく。

会話は若干ギクシャクするだろう。

それでも【0】より【1】だから。


今度はアユが顔を上げると、彼は満面の笑顔。

作り笑いじゃないのが見て取れるくらいの。



『〈…ありがとな〉』


「〈どういたしまして♪︎〉」



素直に嬉しくて、素直に礼を言っておく。


自然と浮かんだ笑みに、悲しみの色は見えなかった。



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