-孤独の戦士-

□code.13【心臓と副作用】
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坂を上がりきり、続いて階段も上がりきると【山守神社】と刻まれた鳥居。


社がひとつだけの小さな所で、建物はボロボロ。

どうやら神主も、神様も居ないようだ。



「おぉ〜、いい感じのところだな」


「そうかな…人が来ないし、場所もちょうどいいから ときどき隠れ家に使わせてもらってるの」


「ほほう、しぶいね」



木は伸び伸び、落ち葉は落ち落ち、鳥の羽根もふわふわ。

夜だと怖そうだが、昼なので“そっち”の心配は無し。


思ったより高評価だったので、千佳は照れている…可愛い。



『…あぁ、確かに…良い所だ』



「隠れ家」という親友の言葉に喝を入れるかと思ったら、それよりも。

1番後ろで振り返り、髪が靡く中 景色を見つめる。



「…こういうとこ好きなのか?」


『高い所が好きなんだ』



ぐるりと見回してから、変わった趣味だな…みたいな 漢数字【三】の目をされる。

放っておくと誤解を生むので、ちゃんと訂正しておいた。


彼女の好きな物は、高い所とミルクティー。

三門市で1番高い ボーダー本部の屋上は、お気に入りのひとつだ。



「ま、オサムを待とうぜ」


「うん」


『あぁ』



3人で賽銭箱前の階段に座り、各々頼んだバーガーやジュースを出す。

普通のハンバーガー、チーズハンバーガー、てりやきバーガーなど…


後はポテトもシェアしながら、ふと 千佳が口を開く。



「遊真くんって…本当に 近界民【ネイバー】なんだよね?」


「ほうだよ」


『…食いながら喋るな』


「んむ…どうも」


「(ふふ、アユちゃん…お姉ちゃんみたい)」



遊真を挟んで食べる面々。

行儀が悪いと注意ついで、ほっぺたについたソースを 備え付けのナプキンで拭いてあげた。

彼が歳上なのに、どうしても見た目と身長は逆。

なんだか微笑ましくて、心中で零す。



「あ、でもおれは この街を襲ってるやつらとはカンケーないよ」


「うん、修くんにそう聞いた」


「チカとアユはそれを信じるのか?」


「うん、修くんは信じられる人だし…それに…遊真くんは怖くない」


『…グルなら私達を助けないだろ。この目で見たから尚更な』


「…そうか」



敵と判断していたなら、千佳の 副作用【サイドエフェクト】が発動する筈。

兆候はないし、自覚もない。


何より全く危害を加えられていないし、むしろ守ってくれている。

隠れ隊員から見ても確実。



「……あのね、遊真くんに…訊きたいことがあるんだけど…」


「ふむ?」


『………』



意を決して コップを握りながら千佳は切り出す。


様子から何を知りたいのか、察しはついている。

でもここで止めるなど野暮なので、黙ってバーガーに被りついた。



「ネイバーにさらわれた人は、ネイバーの戦争に使われるって言ってたでしょ?

 それって…どんなふうに使われるの?」


「ふーむ、それは…さらわれた【国】によるかな」


「【国】…?」



まさか 近界民【ネイバー】の世界も、こちらのようにいくつもあるとは知らなかったので驚く。



「そう。

“あっち”の世界にもたくさんの国があって、それぞれの国でスタイルがちがうんだよ。

“こっち”の世界に来ているネイバーも、同じに見えて別々の国のネイバーだったりする」


「そうなんだ…」


『ふーん…(何処で見分けるかは知らんが)』



殲滅歴は長いものの、特徴とか見分け方とかは聞いていない。

多分教えられても面倒がるだろう、彼女の場合。


もしかしたらエンジニアあたりが把握してるかもしれないが、そこまで躍起になる案件でもない。



「だから、さらわれてった国の状況…戦争に勝ってるか負けてるか、兵隊を鍛える余裕があるかないか、

 司令官がデキるやつかダメなやつか、いろんな事情で話は変わってくるけど…

 トリオン能力が高い人間は“むこう”でも貴重だから、ほとんどの場合は戦力としてけっこう大事にされてると思うよ。


 チカとか超大事にされるかも」



政治や国柄でよく聞く話だと思う。

都市が発展している所、未だに戦争している所、逆に全く戦争していない所。

共通事項は 強者か弱者か、ということ。



「じゃ、じゃあ…さらわれた人がむこうで生きてるってことも…!」


「ふつうに、あると思うよ」


「そっか…そうなんだ……」



彼女も明るい性格ではなく、静かな方だと思う。

表情はほとんど変わらないが、何かに安心したように見えた。



「なんだ? だれか知り合いがさらわれたのか?」


「…ううん、ちがうの。ちょっと気になっただけ…なんでもない!」


「…おまえ、つまんないウソつくね」


「…えっ!?」


『…!』



三輪隊の時と似たような、確信をつく口癖。

ただ 興味本位で済まないのだと。



「こっちにだけしゃべらせて、そっちはヒミツかー。まぁいいや、あとでオサムに訊こう」


「えぇ!? わぁごめん、待って待って!」


『クッ…』



眉を下げて【三】の目、ふい〜〜っと溜息もひとつ。

やり取りが面白くて、つい口角が上がる。

コイツらといると飽きないな、実感しながら。



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