-孤独の戦士-

□code.11【暗黙の信頼】
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高度な駆け引きは、一瞬の判断で結末へ近付く。



「遊真くんのうでが…!」



戦況を見守る中、1番慣れていない千佳の顔が青ざめる。

次いで、ずっと繋いでいる手に力が込められた。

一瞥した仮峰は、安心させる為にも 握り直す。



『(…ならさかほどの腕なら、即死させる為に頭を狙えたはず……それを空中で避けたのか)』



攻防の最中、追い詰められてしまった白少年。

左右がダメなら上に逃げる、道はそこにしかないから。


完全な不意打ちだった筈なのに、右腕が飛んだ“だけ”

それでも充分な援護である。



「あ〜あ、やっぱ 1体1【サシ】で 戦【や】りたかったなー。

 反撃がなきゃ、イジメみたくなっちゃうじゃん」



欠損した部位から 先程のような光粒が空に上がる。


線路上の遊真を見下ろす三輪と米屋。

余裕そうな口調の割には、隙を感じさせない。

同時に 彼の言葉にもあるが、戦闘に対しての違和感。



「…そうだ…空閑にしてはおとなしすぎる。

 空閑はなんで反撃しないんだ?

 空閑の強さはあんなもんじゃないはずだろ」



独りでに喋っているかと思えば、修の首元から黒い球体が。

見覚えのある顔が浮き出て、それがレプリカだと理解した時 横のアユは無言で目を見開いた。

分裂出来るのか、と 小さくても可愛い、の2重の意味で。



〈…ふむ。私が考えるに、その理由は2つある。


 まず1つは、単純に相手の位置取りがうまい。

 近付くときは 絶えず片方がユーマの死角に回りこみ、

 ユーマが一方を相手にすれば、もう一方がすぐにその隙を突けるように動いている。


 ユーマは広い場所に出て挟み撃ちを回避しようとしたが、それも読まれていて狙い撃ちされた。

 なかなか戦い慣れた 部隊【チーム】だ〉


『…ゆーまがどんな手を使おうと、臨機応変に対応出来るってことか』


〈おそらく〉



とても分かりやすい解説をしてくれるレプリカ。

実際その通りの戦法なので、何も間違いがない。



「じゃあ普通に、手も足も出ないってことなのか!?」


〈いや、確かに手強いが ユーマが勝てない相手ではない。


 ユーマが反撃しない2つめの理由は、オサムの立場を考えているのだろう〉


「ぼくの…?」


『(…なるほどな)』



ピンと来ていない本人はさておき、年数上察しのいいカリューネアは理解した。



〈オサムがせっかくB級に上がったのに、自分を匿っていたせいで それが無に帰すかもしれない。

 そう思って平和的に交渉しようと試みたが、相手は聞く耳を持たなかった〉


『(…禁句言ったのもあると思うが、あれは仕方ないよな。

 元はと言えばあのバカのやり方の問題だし)』



無駄な発言はせず、聞き専に徹する。


途中 腐れ縁の所業を噂したが、彼は今トリオン体なので くしゃみなどしないだろう。



〈オサムの立場を悪くしたくはないが、かといっておとなしく殺されるわけにはいかない。


 いまユーマは「いかに穏便に相手を無力化するか」と考えてるだろう〉


「「穏便に」…そんなやり方で勝てるのか!?」


〈私は難しいと思うが、決めるのはユーマ自身だ〉



あくまで判断は本人に任せる主義らしい。

教育的に素晴らしいと思う。


それはさておき、不安ややるせなさが混ざり合い 歯を食いしばる修。



『…シルザード。

 今すぐ動く必要は無いが…万が一、ちか達に危険が及ぶようであれば…生身でも討てるよう、準備しておけ』


[ポロン]



戦況に集中しているだろうが、念の為小声で指示を出す。

トリオンを使わない攻撃方法くらい、彼女は心得ているから。


ふと、今まで黙っていた親友が1歩踏み出し 口を開いた。



「遊真くんって、本当に 近界民【ネイバー】なの…?」



千佳にとっての 近界民【ネイバー】は、友人や 恐らく兄を攫った存在。

決して好印象ではない。


だからこそ、疑問が浮かんだのだ。

「空閑遊真」という人間に。



「……そうだ。でも他の 近界民【ネイバー】とはちがう。

 ぼくは何度も空閑に助けられたし…近界民【ネイバー】だけど、空閑は友達だ。


 千佳と鮎は、どう思うんだ?」



思えば待ち人は共通していたのだから、同じ場所で鉢会うのは必然だったのだろう。


ただ、集合時間より早く来てしまって。

不安な自転車の練習に付き合い、川に落ちた。

運悪く、トリオン兵が現れる。

絶体絶命のピンチに、助けてくれたのだ。



「……うん、わたしも…近界民【ネイバー】でも、遊真くんは怖くない」



お互い名は名乗った。

少なくとも、顔見知りより知り合い寄り。


話していて嫌悪感はあったのか?

ならば自転車を押したりなんかしない。


だって、面白くて 楽しかったのだから。



『…近界民【ネイバー】だのなんだの言う前に、アイツは私達を助けてくれた。

 信じる理由は、それだけで充分だろ。

 それに、レプリカと約束したしな』



一切表情の変わらない黒豆を一瞥する。

勿論心得ているし、無言は肯定ともいうから気にしない。


遊真と会った時から決めていた。

いつか、自分の世界の話をしたいと。


きっと実現出来る日を、何処か確信しながら 少年を見守る。



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