-孤独の戦士-

□code.9【三輪隊の強襲:前編】
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「ふむ…? 近界民【ネイバー】を引き寄せる…?」



4人と1体以外、人間は見当たらない住宅地。


それは此処が警戒区域で、倒すべき怪物は事切れているからだ。



〈話をするなら場所を変えよう、オサム。

 付近に他のボーダーがいる〉



ふよふよと浮かぶ黒豆…もとい、レプリカからの提案。

間髪入れず、爆発が近くで起きた。



「…そうだな、移動しよう。

 こいつはラッド出してないか?

 見逃すと、またイレギュラー 門【ゲート】が出るぞ」


〈大丈夫だ、ラッドの反応はない〉



初めて倒し、ボロボロに砕けたバンダーに振り向く修。

二次被害の心配も無いようで、ひとまず移動することに。



『………』



歩き出す 皆【みな】の中、薄黄の少女だけは 止まったまま。


右手で持っているスマホを、見つめながら。



〈情報は役に立った?〉


〈はい、助かりました〉


〈そう、なら良かったわ。

 三輪隊が近くにいるから、一応気を付けてね〉


〈ありがとうございます〉



LINEの名前は【きょうこさん】

トリオン体でない時に使う連絡手段のひとつで、本部に居る彼女から情報を貰ったのだ。

勿論 上司の忍田には許可を得ています。


バックウィンドウにアプリを下げ、画面を閉じる。

再び響く爆音に、目を細めた。



『(みわ隊、か……嫌な予感がするな…)』



ここ最近では、一昨日と昨日に“それぞれ別の人間として”話をした。

片方は取るに足らない内容だったが(彼女曰く)


迅から何か聞いている訳でもないが、このまま黙っている奴らでもないのは知っている。



「おーいアユ!」


『今行く』



兎にも角にも、移動する為に踵を返した。



───…



区域内をしばらく歩き、やがて「弓手町駅」と書かれた建物に到着。


造りはしっかりしているものの、5年の年月で すっかり廃れていた。



「ほうほう、これが駅ですか。電車にのるという…」



中へ入り、ホームへと進んだ4人。

遊真は興味深そうに辺りを見回している。



「…いや、ここは4年前の大侵攻で放棄された駅で、今は警戒区域になってる。電車は来ない」


「ほお」


「ボーダー基地を中心にしたある一定の地域は、基地周辺に誘導された 門【ゲート】から現れる

 近界民【ネイバー】と戦うための、言わば 戦闘区域みたいになってるんだ。

 その警戒区域を回避する形で、新しい線路がひかれて 駅もそこに造られてる。


 …だから、ここにはもう誰も来ない」


『ふーん…(詳しく聞いたのは初めてだな…)』



丁寧な説明に 改めて納得する鮎。

三門市がこうなってしまった概要は 第1次大規模侵攻に関わっていたので知っているが、全部は頭に入れてなかったので。



「…ふむ、電車は来ないのか。少し残念だ」


『確かにな』


「ん、アユは乗ったことあるのか?」



同じように腕を組み 自分も乗りたかった的な風で、遊真に同意する彼女。



『乗った経験は無いが…故郷の近くの国にはあったって聞いたことあるんだよな、電車。

 まぁ金持ちしか乗れなかったらしいけど』


「ほぉ」



こちらに来てから、電車で何処かへ行く用事もなく。

加えて前の世界の電車は 黄の月の元、

工業が発達したバルア帝国の上級都市という、貴族のみが住んで歩ける所からしか出ておらず。

更に言うなら、空飛ぶ船で移動するのが常識だったので レールの上しか走れない乗り物に乗る必要性がなかったのだ。



「(金持ちしか乗れない電車のある国って何処だ…?)」



修は知る限りの国外を思い当たってみるが、おそらく該当しないだろう。



「…? 遊真、くん…もしかして、電車に乗ったことないの?」


「ないよ? だっておれはネ───

「だぁぁっ! そっそうだえーっとなんでお前達、一緒にいたんだ?」



大声で遮るメガネボーイ。


何しろ、隠す理由も彼にとっては無いからだ。



「えっと…待ち合わせの橋の下で知り合って…」


「自転車を押してもらって川に落ちた」


『風邪ひくからストーブでも探そうと…』


「…さっぱりわからん」



それぞれの証言を繋げて読めば、一応文にはなる。

自分で聞いておきながら理解していないのもどうかと思うが。



「まぁいい、ひとまずお互いを紹介しておこう。


 こっちは雨取千佳、うちの学校の2年生。

 ぼくが世話になった先輩の妹だ」


「よろしく…」



少し照れながら挨拶。

控えめな性格は、彼女のいい所。



「千佳のクラスメイトの 仮峰鮎。

 ボーダー隊員ではないけど 運動神経もぼくより良いし、いざって時に頼りになる…と思う」


『…なんだそのビミョーな説明』



煮え切らない紹介に、ジト目で修を見る。

彼は下級生としての仮峰しか知らないので、当たり前なのだが。



「いやその…嘘じゃないだろ?」


『ハァ…まぁいいが。よろしく、ゆーま』



あまり気にしない事にして、遊真に手を差し出した。


握手を交わす時、お互い口角は少し上がっていて。

期間は短いといえど、既に他人ではなかった。



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