-孤独の戦士-

□code.7【数撃ちゃ当たる:後編】
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日付けが変わって、既に2〜3時間経った未明。


泊まることはあれど、玉狛メンバー全員が住んでいる訳では無い。

完全な居住者は 支部長の林藤と陽太郎(雷神丸)、迅、レイジ。

宇佐美と小南も 殆【ほとん】ど泊まり込みだが、本日は帰宅。


ひとつ共通しているのは、皆【みな】の個室があること。

元々住んでいた鮎も当然で。



「………」



ネームプレートは下げているものの、場所は変わらない。

廊下の1番奥、扉が少し開いている。

誰かが入ったから。



「(ぐっすり眠ってるな、アユちゃん…)」



リビングから出ていく、彼女の背中を見つめていた張本人 迅。

長髪が下ろされ 横向きで眠るアユを、ベッド脇でしゃがんで また見つめる。



「…ごめんね、アユちゃん。おれの我儘に付き合ってもらって」



さらりと、前髪を梳くが 起きる気配無し。

それだけ玉狛が 心を落ち着ける場所だからである。


彼もまた、やましい考えは無い……多分。



「…明日、メガネくん達が三輪隊と接触する未来が視える。

 ぼやけてるけど、きっとアユちゃんもそこにいるんだろうね」



投げ出された左手を 両手で包み、規則正しい寝息だけの部屋で。


既に修を視て、今後の予想がついているのだ。



「でもそうなると、きみはトリガーを使えないってことになる。

 今のところ 不穏な未来は視えないから、多分大丈夫だろうけど……」



同時に「仮峰鮎」として三輪隊と出会うことが予想される。

トリガー無しでも戦える人間ではあるが 城戸派の者に 煌術【こうじゅつ】を使えば、

たちまち 近界民【ネイバー】だと怪しまれるだろう。

実際そうなのも問題なので。


ふと、迅の記憶が呼び起こされる。

数年前くらいの、戦いの最中。



───なんでっ……待ってよ…あんたまで居なくならないで…!!───


───…ごめんな……じん───



溢れる涙が 乾いた地面に落ちていく。


周りの轟音なんて無意識に遮断して、彼女の声だけ聴いてしまった。


それで良かったのか、悪かったのか、今でも判らない。


続いた 目が眩む程の光が静まった時、何もかも終わっていたのだから。


ひとつ、心に決めたことがあるとすれば。



「アユちゃんは、おれが護るから」



何度も、何度でも誓う。

直接言うと否定されるだろうから、聴いていない所で。


手を優しく握り、引き寄せ、指先に口づけを。



[ポロポロンッ!!]


「うわっ…え、シルザード!?」



瞬間、アユのブレスが変形して 宙に浮く球体となった。

基本 眠るという“機能”がないシルザードは、最初から最後まで見ていたということである。



[ピー!ピー!]


「し、静かに…! 変なことしようとしたわけじゃないから…!」



主の危機と感じたのか、バツ印やサイレンの形にコロコロ姿を変えていく。

アラームのような音も一緒に。



『ん…んん〜…』


「!!!」



割と耳に響くので、眠る少女にも影響したのだろう。

くぐもった声と 少し身体が動く。

逆に迅は、ぴったり固まった。



『…うるさい…ぞ…シル…ザード……くぅ…』



寝言か夢か。

どちらでもないのかはさて置き、相棒に注意した後 静かになった。


数秒見張り、肩が上下し始めたアユを確認した彼は大きく息を吐く。



「…危なかった……おれの命が。お前のせいだぞ〜、ったく…」


[ピー…]



ふよふよ浮いている銀球は、主人の言葉に反省しているのか すっかり大人しくなった。

ついでにつつくと 意外に感触気持ちいいと思いながらも、再び眠る想い人を見つめ 頬が緩む迅。



「…おやすみ、アユちゃん」



ふわりと頭を撫でてから、彼は部屋を出た。


これを知るのは、物言えぬ銀の生物のみ。



───こうして、ラッド駆除は 幕を閉じた。


次の幕開けは、似た存在との出会い。



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