-孤独の戦士-

□code.5【似非双子の災厄:後編】
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時は遡り、午後8時半を過ぎた頃のこと。



「お疲れ様です、嵐山さん」


「お疲れ様です」


「充、木虎、お疲れ!」



本日の業務を終え、時枝と木虎を先に帰した嵐山。


ある程度の片付けをした後、自分も換装を解き 隊室を出る。



「副も佐補もまだ起きてるかな…」



大好きな弟妹達を想い、自然と歩み早めた彼。

エレベーターへ乗るため、廊下の角を曲がった所。



「…あれ、沢村さん…?」


「…あら、嵐山くん」



ちょうど反対方向から、バインダーを片腕に持つ 本部長補佐 沢村響子が歩いてきたのだ。

嵐山自身 忍田派である関わりで、交流は多い方である。



「遅くまでご苦労様ね、嵐山くん」


「沢村さんこそ、こんな時間まで仕事ですか?」


「今日はイレギュラー 門【ゲート】問題の会議もあって、ネアの報告書がまだ出来てないの。

 自分でするとは言ってくれるんだけど、あの人も頑張ってくれたからね。

 それが終わったら帰るつもりよ」


「あぁ、ネアの………あ」



彼女がネアのオペレーターも兼任していることは、少なくともA級全員が知っていて。

これに関して驚くことはないのだが、忙しさで忘れていた事を思い出した。



「どうかしたの?」


「…沢村さん、ネアの連絡先を教えてもらう事はできますか?」


「…えっ…!?」



瞬間 顔を引き攣らせた響子。

しかしすぐに持ち直したので「?」と嵐山は気付かない。


ネアの正体は あんなトリオン体から察せるわけがなく、謎に包まれている。

性別は女性 年齢は15歳 氏名は、仮峰鮎。


…だと知っているのは、玉狛の面々・城戸・忍田・沢村。

というか総司令からの命令で、ネアの素性は秘密厳守なのだ。


だが、彼が問うたのは【何者か】ではなく「連絡先を知りたい」



「…急に何を言い出すのよ、貴方…」



容易に判断しかねる内容だったため、そもそもの理由を探ることにした。



「中学校で、三雲くんとは別に 近界民【ネイバー】の撃退を行っていたんですよね? あの人は」


「えぇ、そうよ。オペレーターとして、私も対応したから」


「その時に 俺の弟と妹を助けてくれたって、2人に聞いたんです。

 俺自身 礼を言いたいですし、弟達ももう1度会って御礼したいと…頼むだけでも頼みたいんです!」



最後は少し声量大きめで。

真っ直ぐな意志は、その言葉と 曇りの無い瞳でこれでもかと伝わってくる。


【連絡先を教えてはいけない】とは命令されていないが、教える=正体がバレる確率が上昇するだろう。

しかし、悪意のない人間を無下にするのは心が痛い。

嵐山ならば尚更だ。



「……連絡先は規定で教えられないけど、あの人が居る場所なら知ってるわ」


「…!」



ということで、敢えて彼女の部屋を教えることにした。


スマホに変声機能はないため、確認もせず出られでもされれば即バレ。

アユはそういう所がある。



「ネアにも殲滅処理課の隊室みたいな部屋があるの。

 本部にいる時は大体そこに居るから。


 ただし、こんな時間だから必ず居るとは限らないわよ。

 (居るも何も寝てるでしょうけど、あの子は…)」



表向きの設定を述べながら、彼女なら既に寝ているだろうと考える。

それに 嵐山が部屋に行くことになっても、彼が向かう間に連絡をとれれば 何とかなるであろうから。



「沢村さん、隊室の場所を教えていただけますか?」


「…行くのね。分かったわ、ちょっと待ってね」



十中八九、教えて欲しいと言ってくるのは予想していた。

内心少し安堵しながら 手持ちのバインダーからメモを取り出し、階数と番号をさらさらと。



「はい、この場所へ行ってみなさい」


「あ…ありがとうございます! 早速行ってきます!」


「えぇ、いってらっしゃい」



最後に「失礼します!」と頭を下げて、踵を返した彼。

太陽のような眩しい笑顔で。

若干目を細めながら、響子は手を振って見送る。


そして嵐山が角を曲がっていなくなった瞬間、ポケットからスマホを片手で。



[プルルルル…プルルルル…プルルルル…]


「…出ない」



一旦切ってはまたかける、を2回ぐらい繰り返したが 一向に応答の気配はなし。



「念のためにLINEもいれておきましょうか…」



鮎へのトーク画面を開き、大体のあらましを打ち込んで送る。


暫く様子を見たが、やはり【既読】は付かない。



「…まぁ、寝てるなら大丈夫かしらね…?」



直接部屋に向かえば、間違いなく嵐山と鉢合わせするだろうし 生憎まだ仕事が残っている(ネア関連の)

これ以上考えても仕方がないと思い至り、沢村は自分の仕事場へ戻っていったとさ。



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