-孤独の戦士-
□code.4【似非双子の災厄:前編】
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【迅side.】
突然だが、おれには未来が視える
いや、冗談とかそういう類じゃなくてね
優れたトリオン能力を持つ人間には、副作用【サイドエフェクト】が宿るもんなの
まぁおれ、実力派エリートだから♪︎
話を戻すけど、おれの 副作用【サイドエフェクト】は【未来視】
目の前にいる人間の 少し先の未来が視れる
1度でも見た事がある人なら 傍にいなくても大丈夫
…なんだけど。
「テスト期間って聞いてたから、全然玉狛に来れないのは分かってたけど…寂しかったよ〜」
『………』
今 おれの“目の前”にいる大人びた女の子、名前は仮峰鮎
何だかんだでもう7年くらいの付き合いになるんだけど、これから彼女が“どうなるか”
…未来が視えないんだ。
全くって訳じゃなくて 確率でいうと、良くて30%ってとこかな
理由は以前に聞いたんだ
同時にそれが どうしようもできないことも分かってる
だから、久し振りに会って 変わらない姿を見ると 顔に出さないけどめちゃくちゃ安心するんだ
だっておれは、アユちゃんのこと…───
…あれ、アユちゃんがおれに近付いてくる
身長とか俯いてる関係で、顔は見えないけど…
『…[アパ]』
…え…い、今 聞き捨てならない言葉を───
『はぁっ!』
「うおぉっ!?」
あっぶない危ない…ちゃんと避けられた…!
実はこの蹴られる未来、運良く視えてたんだよね…
でなきゃ顎に大ダメージが…って、えっ なんで今笑って───
「ぶぅっっ!!」
…まさか、顔面パンチが次にくるなんて…これは視えなかった。
おれは見事にゴロゴロ転げながら吹っ飛ぶ
幸い周りには誰も居なかった (ていうかいたら彼女に話しかけられないし)
トリオン体だからね…地面に強打しても痛くはないんだけどね!
「…ちょっとアユちゃん! 殴られたとこ痛いよ! あと心も!
これ絶対[アパ]かけたでしょ!?」
いやもう…顔へこむんじゃないかってくらいクリーンヒットだよ…
もちろんそんな事は絶対にならないんだけど、見事に予知外れたってのもあって精神的なダメージが…
自然と涙目になってきて、当の本人に訴えるんだけど…
『お前の心なんか知るか。
それに[アパ]をかけただと? 当たり前だろう。
お前トリオン体なんだから、そうじゃないと痛くないじゃないか』
「わざとなのね知ってた!!」
『なら聞くなバカが』
ほんっとうに おれの扱いだけ酷い…
男泣きしてもおかしくないレベルだよこれ…
…まぁ、これが当たり前になってきてるのも事実だけど。
『挨拶はこれくらいにして…何の用だ、じん』
えー…挨拶なのこれ〜…
いや、ゴホンッ…気を取り直して…
「防衛任務で ここ一帯はおれの担当なんだけど、
今からかなりの数のトリオン兵が現れるって おれのサイドエフェクトがそういってる。
単刀直入に言うと、殲滅を手伝ってほしいんだ」
『…何故だ?』
「えっと…念の為、かな。
おれがその後 本部に呼ばれるのが視えたから、遅れて城戸さんに怒られんの嫌だもん」
『「もん」っていうな、キモいんだよ』
「酷い…」
おれ自身の未来は 誰かしらの未来じゃないと視れないから、今回はボスのやつで
その呼ばれた所に 彼がいたからね
でも アユちゃんに手伝ってもらわないと遅れる、とかは“視えない”
だからこれは、おれの予想ってか…わがままだな
折角だし どんな形であれ、もうしばらく一緒に居たいから…
「…それで、頼める───
[バチッ!]
「『!!/…!』」
え、マジ?
今出るなんて視てないよ……あ、そうか。
“アユちゃんがいる”から視えなかったんだ…!
「人が話してる時に…」
おれは一旦納刀した〔風刃〕を、再び抜こうとした…とほぼ同時。
『月よ、力を…』
アユちゃんの足元に 銀光の魔法陣…みたいなものが表れる
そこから自然と風が上昇して ちいさな光の粒と共に 彼女の長い一括りの髪が靡く
おでこの紋様もちらちら見えて、綺麗だなぁ…
…おっと、見惚れちゃった…けど おれの役目はないな、これ。
まず出てきたのは…バンダーか
大体は砲撃した後のスキを狙うんだけど、銀って確か…
思ってた通り、ちょうどアユちゃんの横に光粒が集まっていき 形成していく
やがて 立体のひし形を 長細く伸ばしたものになり、光の状態から 鉄の様に
そして彼女はバンダーの急所 口内の眼球を、左手で銃を撃つような感じに指さし…
『[ジェダ]』
と零した瞬間、弾丸の様に飛んでいった銀柱
ダーツの的真ん中へ当てるみたいに 見事命中した
銀の 煌術【こうじゅつ】は確か、当たれば即死する効果があるって前言ってたなー
トリオン体とかトリオン兵でいうなら 緊急脱出【ベイルアウト】と機能停止だけど。
暴れる前に事切れたバンダーは、ゆっくりと横に倒れていった
『トリガー、起動【オン】』
ズボンのポケットから出した左手には、彼女専用の銀トリガー
言葉を紡ぎながら上へ投げて それが浮いたまま 換装していく
『…これでさっきの借りは返した』
轟音を背景にだけど、アユちゃんの声は おれの耳にしっかり入ってくる
『だから今からの貸しは…後日改めて払ってもらうぞ、じん』
長い〔バッグワーム〕に 顔を被う〔ペルソナ〕
槍の専用武器 白銀弧月〔しろがねこげつ〕を携える“この人”は、仮面の奥で ニヤリと笑った気がする
「…了解、“ネア”♪︎」
こういう所は、昔からなにも変わってない
おれが彼女に惹かれる部分のひとつ
アユちゃんはアユちゃんで、おれはそんな彼女が好きだって事
今までも これからも 絶対に変わらない
実はアユちゃんが、近界民【ネイバー】であろうとも。
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