-孤独の戦士-

□code.2【昔と今での繋がり:前編】
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‘カツッ…コッ…カッ…───’


『……ん……っ…』



それから2時間くらい経った頃。



‘……に……て…じ………だ?……’


『(…あれ…声が聞こえる…)』



上の空だが、誰かの話し声が 微かに耳に入る。



‘…ン……でけ……う…す’


『(……騒がしい…今何時だ…?)』



横になったまま、ポケットからスマホを取り出す。

近くで言い合いが聞こえるが、とりあえず無視。



『(えっと…12時55分……昼休みの時間か…どうりで人が居るわけだ)』



ゴロンと仰向けからうつ伏せになり、端から端へ ほふく前進でゆっくり移動する。

できるだけ 音をたてないように。



『(にしても…1人聴いたことある声のような……)』



隠密行動さながらで、やっと下が見える所に到着。

そー…っと覗くと…



『(…やっぱり…おさむだったか…)』



不良っぽい3人の前辺りでうずくまる 眼鏡の少年。

昨日は会えなかった友人 三雲修がいた。



『(それと…あのバカ面3人って、3年の不良だったな)』



理不尽な要求を 下級生達に強いている奴らは、学校内である意味有名。

修の性格を理解しているアユは、彼が注意しようとしたんだと、自然に理解した。



『(さて…手助けしにいくのも有りだが…学校を休んだ事をおさむに怒られるだろうな……どうしよう…)』



頬杖をついて、様子を伺う。


不良と修を交互に見ていると、あることに気付いた。



『(…あれ? おさむの隣にいるのって……)』



真っ白い髪に、親友と同じくらいの身長。



『(間違いない…昨日のやつだ)シルザード、あいつだよな?』


[ポロンッ]



目立つ容姿のため、覚えていた仮峰。

一応相棒にも確認する…小声で。

『(仲良くなったのか? あの2人…)』なんて思っていた刹那。



[ズドンッ!!!]


「「「!!?」」」


『…!』



校舎が揺れるんじゃないか、という程の振動が起きる。


地震が起きたわけでも、近界民【ネイバー】が現れたわけでもない。



『(へぇ…なかなか…)』



白髪の少年が、思いっきり足を下ろしただけである。



「わるいけど…どいてくれる?」



半ば脅すような 漢数字の三の目で、不良に強いる彼。

その内1人が何かを思い出したのか 道を譲り、屋上にいた生徒も 皆戻っていった。



『(ふむ……アイツ、面白いやつだな…)』



不良達もおどおどしていたが、しばらくしてからいなくなる。

その間も寝転がりながら、ひとりほくそ笑んだ。



『(トリオン兵を倒したかもしれないというのは、正直半信半疑だったが…可能性は出てきた。

 暫く視野にはいれておこう。バレない程度に…)』



自分の“立場”上、慎重に調べていく事に決めた鮎。


とりあえず帰ろう…そう思い、身体を起こした その時…



‘バチッ’


『…ん?』



聴いたことがあるようなないような、ショートした感じの音がする。


それからすぐだった。

どす黒い球体が、彼女の真上 屋上の扉上へと出現したのは。



『…ふざけんなよトリオン兵…ここ市街地だぞ…!』



すぐさま立ち上がり、スマホのスピードダイヤルにコール。



『こちらネア!

 きょうこさん、レーダーにもう出てると思いますが、

 三門市第三中学に、イレギュラーゲートが発生しました!

 至急部隊の要請をお願いします!』


〈ボーダー本部 沢村よ。つい先程情報が来たわ!

 ゲートの数は2つ。

 既にA級部隊を向かわせているわ!〉


『(2つ…!?) 1つは目視で確認してます!

 すぐ対応にあたりますので、一旦切ります!』


〈了解よ、気を付けて!〉



少し乱暴に通話を終え、スマホを片付ける。

ジーンズのポケットに手を入れ、トリガーに触れた瞬間。



〈キシャアァァッ!〉


『…!!』



既に1体が、門【ゲート】から顔を覗かせていた。



『(チッ、このままでは 落ちただけで扉が潰れる…!

 そうなれば、屋上への避難経路が絶たれてしまう…!


 そんなこと…!)』



脳裏に 大好きな親友の顔が映る。



『そんなこと…されてたまるか!』



目つきは鋭く、上空を睨みつけながら。

彼女の周りにだけ風が起き、空気が変わった。

すると、足元に 紫色の光で描かれた 魔法陣のようなものが。


その名は 煌術【こうじゅつ】

大気に溢れる月の力を借り、超常現象を起こせる特殊能力。


“元の世界”で最強の使い手だったカリューネア。

こちらの世界でも 問題なく発動出来たので、

トリオン兵破壊の攻撃手段の1つとして、利用しているのだ。



〈シャアァァァッ!〉



遂に 門【ゲート】から解き放たれ、仮峰の予測通り 落ちてくるトリオン兵。

種類は 昆虫のように這いずる戦闘用 モールモッド。


このままでは、潰される位置にいた彼女だが…



『月よ、力を……[グラシャ]!』



一度目を閉じ 開けたと同時に、手を翳す。


すると、どうだろう。

一瞬でトリオン兵が氷に包まれ、空中で止まる。



『次!』



間髪入れずに、今度は赤の紋様が輝く。



『[アパ]!』



光は アユ自身に纏われていく。


紫は氷を 赤は炎を司り、[アパ]は身体強化の効果がある。

つまり、生身でもトリオン体ほどの力が扱えるというわけだ。



『おっ…らぁっ!!』



跳躍し固まった個体を 思いっきり蹴る。

飛んでいった先は、経路のない別館の屋上。

ここなら人が来る心配もない。



『っ! やはりまだ出てくるか…!』



着地したと同時に、またもやモールモッドが顔を出す。

しかし先程のように 入口上ではなく、床の方へ3匹落ちた。



〈シャアァァ!〉


〈キシュゥゥッ!〉



奴らの前へジャンプし、移動したネアへ 真っ直ぐに向かってくる。



『生徒が来る前に…全て殲滅する!』



愛用のトリガーを目前へ突き出し、紡いだ。



「『トリガー、起動【オン】!!』」



今この瞬間、2人の人間が トリガーを起動した。


生徒のために 友のために 力を用いていたから。



幕はまだ、降りはしない。



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