-孤独の戦士-

□code.1【異世界からの来訪者】
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『さて、トリオン兵の場所は、と…』



右手で仮面のこめかみ辺りに触れる。

すると、彼女の視界には 簡単な地図と 点滅する赤丸。


この仮面 名を〔ペルソナ〕は、顔を隠す以外に 常時レーダー機能も兼用している。

他にも機能があるが、それはまた後日。



『…【A11地区】だな……よし…───』



レーダーを視界の端に寄せ、地面を蹴った。

まず 近くの屋根に降り、目的の警戒区域へと 跳躍して向かう。


途中、轟音と煙が 遠くに見えた。

三輪隊の仕業だろう、と思い 一応レーダーに目をやる…が。



『…ん…?(みわ隊の反応、まだ遠いぞ…?)』



トリオン兵の反応は、確かに消えていた。

しかし、その名残近くに 三輪隊のものはない。

彼らは 自分とは逆方向から、そこへ向かっている最中なのだ。



「(アイツらレーダー持ってないのか…って、オペレーターいるから要らないよな……

 にしても、だとしたら一体誰が…───)」



考えを巡らせながらも移動を続け、A11地区を見渡せる家屋に到着。

そこでは、破壊の衝撃から発生した煙が 未だ蔓延している。


しかし、来た方向が良かったのだろう。



『(…? 誰か居るぞ…? 遠くて見えんが…)』



顔は分からない距離だが、確かに動く影が視える。

おそらく、2人。

『ふむ…』と少し考えてから、右手を横に出した。



『シルザード、望遠鏡』



すると、隊服の袖の中から 銀色の液体…水銀の様なものが現れた。

生き物のように動き、宙に浮いて。


これは 彼女の“一族”のみに伝わる【銀の生物】

様々な物に姿を変える事が可能なのである。


先程 アユは『望遠鏡』と言った。

喋ることは無理なのだろう、

[ポロン♪]という音の次には くにゃりと形を変えていき、レトロな装飾の望遠鏡に変化。

『ありがとう』と一言礼を述べ、受け取り 座り込んで 覗き込む。


因みに槍の方は、使う必要が無くなったので片付けた。



『どれどれ……って………え…?』



性能の良さのお陰で、顔はしっかり見えた。

男の子 2人の姿を。


それから三輪隊が現着したのは、数分後であった。



───…



「三輪だ、現着した。戦闘は終了している。

 大型 近界民【ネイバー】の撃破を確認。

 かなり派手にやってる。どこの部隊の仕業だ」


〈調べるわ、ちょっと待って〉



ほんの少し時間が経ち、現場に2人の青年。

ボーダー本部所属 A級7位 三輪隊。

隊長 三輪秀次を始め、米屋陽介 奈良坂透 古寺章平。



「先越されたなー 秀次、すっげーバラバラじゃん。

 こりゃA級の誰かだろー?」


「…だろうな」



奈良坂と古寺はスナイパーなので別行動。

通信相手は、オペレーターの月見蓮。


此処に来ているのは 三輪と米屋である。



「ん…?」



そんな彼等の背後。

静かに 誰かが降り立った。

槍を肩に乗せたまま、米屋が振り向くと…



「おっ、ネアじゃん。アンタも来たんだ?」



実は先に着いていたが“現場”には辿りついていなかったネアがいた。


A級隊員なので、お互い存在は勿論 話もしたりはする。

主に米屋が。



『…たまたま近くにいたから、念の為に急行しろと言われただけだ』


「えー? それって俺らの事信じてないの〜?」


『そうは言ってないだろう、こめや』


「だから俺は 米屋【よねや】だって!」



ネアは米屋の名字を、完全に間違えて覚えている。

それに同じ槍使いというのもあり、軽口を叩く程度の付き合いはあり。


背後で雑談している2人を 怪訝に睨む隊長だが、そこに通信が入った。



〈…おかしいわね、先着した部隊はいないわ〉


「なに?…ネアはどうなんだ」


〈ネアは私達のすぐ後…ついさっき着いてる。

 他の隊員は、誰もそこには来てない。

 私達が一番乗りの筈よ?〉


「…どういうことだ?

 じゃあ一体、誰が これを…───」



A級の誰でも ネアでもなく、正体不明の何者かが バムスターを倒した。

オペレーターの見る画面にも、何の反応もない。



『………』



ただひとり、その様子を 仮面越しに見つめる掃除屋。

またの名を、仮峰鮎。

彼女は 自分だけがこの目で見た光景を思い出す。



『(……何故…あの場に居たんだ………おさむ…)』



望遠鏡越しに確認したのは、自らの友である 三雲修。

彼がボーダーに入隊していた事は、千佳共々聞かされているので知っていた。

同時に トリオン能力が低い方だということも。


ならば、トリオン兵を倒したのは もうひとりの知らない少年しかない。



『(…あれは…一体誰なんだ…?)』



真っ白の髪に 赤い目をした背の低い少年。


彼が 何かしらの力を持っているという推測を、心の内に留めたアユであった。



───こうして、いつもと少し違う任務が 幕を閉じた。


次の幕開けは、イレギュラーゲート。



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